「自民党総裁選」ここまでするのか徹底した〃石破つぶし〃 過酷で非情な権力闘争

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 政治とは権力闘争である。ましてや、国のトップを選ぶ自民党総裁選となれば、それは過酷であり、非情である。病気を理由に辞任する安倍晋三政権がまさか、ここまでやるとは思わなかった。菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長が争った自民党総裁選は公職選挙法にのっとった選挙ではない。だからといって政敵をここまでたたきのめすとは。「権力闘争だから仕方がない」という政治ジャーナリストもいるが、そこには、国民はいないのではないか。

総裁選は茶番劇

 こういうときは政権と近く、裏話をきちんと取材できる読売新聞が頼りになる。9月15日付朝刊の1面トップ「自民総裁に菅氏」を受けた2面の「岸田氏2位確保 石破陣営落胆広がる」とのサイド記事が目を引いた。総裁選は初めから7派閥のうち5派閥が支持をいち早く打ち出したことで、「菅氏圧勝」が決まっていた。総裁選は「出来レース」「消化試合」といわれていた。私は「茶番劇」と呼んだ。

 注目されるのは、石破氏と岸田氏の2位争いだとメディアではいわれていた。2位にならないと、来年秋の総裁選出馬は難しいからだ。総数534票のうち投開票日の14日の前日の13日には、メディア各社の取材で菅氏が89票、石破氏42票、岸田氏10票が判明していた。14日午後2時から行われた投開票の結果は、菅氏がこの日投票した議員票と地方票合わせて377票。注目の2位には、岸田氏が議員票79、地方票10の計89票で、石破氏の議員票26、地方票42の計68票を21票上回った。

 読売新聞によると、この後の岸田陣営の結果報告会は「勝ったかのような盛り上がりを見せた」という。陣営の山本幸三副選対本部長からは「議員票で誰が(上乗せして)入れたのかは秘密にするのが一番いい」との声も飛んだ。陣営の当初の票読みは谷垣グループを入れて「55票」だった。なぜ「24票」も上乗せされたのか。

「施しの票」=〃石破つぶし〃の票

 読売の記事はこの「24票」を「施し票」として様々な憶測を呼んでいる、との前提でこう書く。

 「中でも有力な説は安倍首相の支援だ。首相は岸田氏を後継候補として目をかけ、石破氏とは距離を置いてきただけに、『首相側近がこぞって岸田氏に票を流し〃ポスト菅〃に引き立てた』(中堅)との声が出ている」

 確かに安倍氏は「後継は岸田氏」ということをたびたび公言していたが、辞任発表の後、推薦要請のため訪れた岸田氏にもつれなかった。だから、「情に厚い」安倍氏が岸田氏を2位に残して、次期総理に含みを持たせたといわんばかりの記事となっている。

 この記事は重点の置き方が違うのではないか。安倍氏に〃忖度〃していないか。当選したら森友、加計学園や「桜を見る会」の再調査も辞さないという姿勢をみせ、党員・党友に人気の高い石破氏を、1年後の来年秋に総裁の任期切れによる総裁選にどうしても出したくないということなのではないか。確かな証拠はないが、この「施し票」24票は〃石破つぶし〃の票だというのが私の見立てである。

 この24票は菅氏への票とみるべきだろう。そうすると、岸田氏は55票プラス10票の65票で、石破氏は68票とわずかだが、石破氏が岸田氏を上回っていた可能性も捨てきれない。ただし、これは岸田陣営の議員票「55票」という読みが正しいとの前提である。 

「一寸先は闇」

 今回の総裁選は8月28日の辞任会見後、あれよあれよという間に五つの派閥が「次期首相は菅氏」で一致するという不思議な雪崩現象が起きた。当初、安倍氏は本気で岸田氏を後継に考えていたようだ。しかし、政調会長として任せた新型コロナウイルス対策としての30万円支給案が、公明党と二階敏博幹事長の手で一律10万円にひっくり返されたことが岸田氏の命取りとなり、安倍氏も心変わりしたというのが、ほとんどのメディアの報道の見立てだ。ただ、この案は官邸官僚の作ったもので、かならずしも岸田氏のせいではない。閣議決定した政策をひっくり返す。これもあやしい。

 総裁選を巡り自民党の有志議員140人超は、石破氏が優位とされる党員・党友投票の実施を求めたが、党執行部は「コロナで政治空白をつくらない」との理由で潰し、簡易型選挙とした。そして安倍政権の継承を掲げる菅陣営は、「グレートリセット」を主張する石破茂元幹事長が2位になり、影響力を残すことを懸念し、岸田陣営へ票を回した可能性が高い。国民は菅氏についてメディアの流す雪国出身の〃苦労人神話〃(これには「集団就職」や「夜学」などのキーワードが使われた)に引っ張られたのではないか。あれだけあった「石破人気」はどこに行ったのか。やはり政治の世界の一寸先は闇である。