「対決政治、もう耐えられない」トランプ離れの共和党員、バイデン支持に回る

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 今秋の米大統領選挙でトランプ大統領に挑戦する候補者を選ぶ野党民主党予備選挙は、先週10日14州で同時実施された「スーパーテューズデー」で急展開した。バイデン氏(オバマ政権副大統領)が突如、トップに飛び出した。何が起こったのだろう。米国の一部のメディアでは、トランプ大統領登場で極限まで高まっている党派抗争に疲れ果てた与党共和党の一部が、(政治を)「正常に戻そう」と訴える穏健派バイデン支持を呼び掛けていたと報じられている。共和党に「トランプ離れ」が起きていたのだ。17日のオハイオ、イリノイ、フロリダ、アリゾナの有力4州予備選が同じように「トランプ離れ」の後押しによるバイデン勝利に終わるとすれば、大統領選挙の行方に大きな影響が及ぶことになる。

異常に高かった投票率

 2月から始まった民主党予備選挙で、改革を掲げる急進左派サンダース候補(無所属の上院議員)が若者層の熱狂的支持を集めてフロントランナーに躍り出た。民主党は大統領選挙で左派候補が惨敗した歴史を背負っている。党主流派は「サンダース下ろし」と、バイデン候補の下にリベラル・穏健派の結集を図るキャンペーンに乗り出し、成功した形になった。だが、4年前も主流派候補クリントン氏を最後まで追い詰めたサンダース氏の突然の失速、予備選が始まる前の世論調査では最有力視されながら低迷していたバイデンの急上昇という展開は、誰も予想しなかった。

 そこで注目されたのが、「S・チューズデー」では4年前の予備選を大きく上回る票数が投じられていたことだ。これがバイデン氏を押し上げた。米国では有権者はそれぞれ自分が選ぶ党に党員登録をしている。大統領予備選挙は民主、共和両党の党員が党候補を選出するための選挙だ。しかし、無党派や他党の投票を認める州が少なくない。民主党の最大の目標は「トランプ再選阻止」にあり、投票率がいつもの予備選より高くなっておかしくはない。だが、獲得票はその範囲を超えていた。サンダース氏は序盤戦で一気に流れをつくる戦略で成功したが、その勢いと4年前の実績と比べると、思わぬ失速というほかなかった。

「トランプの混乱」終わらせる

 「S・チューズデー」の後、ニューヨーク・タイムズ紙は「一緒に民主主義を守ろう・新しい行動センター」のリーダー、ロングウエルさんの活動報告を掲載した。これは共和党員の組織で「トランプ大統領による政治的混乱を終わらせる人物」に投票するよう同党員や右寄り無党派に呼びかける運動を進めている。トランプも嫌だし、サンダースの左翼急進主義も困る。その間に挟まれて行き場がない。そこにバイデン氏が(政治を)「正常に戻そう」と訴え、投票の行き先が見つかった。

 「S・チューズデー」および次の週の6州予備選で投票率が大幅にアップした。特に党員以外にも投票参加を認めているテキサス州で4年前の87%、バージニア州で74%(ともにS・チューズデー)とともに大幅な投票増を記録したという。共和党員が民主党員並みに投票所に足を運んだことになる。
 テキサス州は事前の世論調査ではサンダース圧勝とみられたのに、バイデン氏が逆転勝利した。カリフォルニア州はニューヨーク州と並ぶ大州で、サンダース氏が事前運動に全力を投入、やはり圧勝とみられた。しかし、バイデン氏の急追を受け、やっと逃げ込んだ。

「コロナ効果」

 他の5州とともに10日に予備選を実施したミシガン州も党員以外の投票を認めており、トランプ支持が圧倒的な地域の共和党市長が公然とバイデン氏に投票した。同市長はワシントン・ポスト紙記者のインタビューを受けて、こう語った(同紙電子版)。

 この地域はいわゆる郊外地で、長年共和党支持のブルーカラーと大卒専門職が混在している。バイデン支持に転じた直接のきっかけは、新型コロナウイルスで世界中がパニックになっているのに、大統領が自分の選挙のことしか考えていないからだ。4年前にトランプに投票したことを、今は自慢できない。トランプの方向は間違っているし無能だ。彼には道徳心がないが、バイデンにはある。地域の人たちはサンダースが言う国公立大学無償化とか国民皆保険制度は国に頼むのではなく、自分で働いて手にするものだと思っている。住民の多くは今もトランプ支持だが、バイデン支持に代わる人も多いと思う。

「トランプ離れ」と無党派

 米国の民主主義は共和、民主両党による2大政党政治の上に成り立っていた。しかし、このシステムは今では機能不全に陥っている。ギャラップ社は毎年十数回から数十回もの政党支持率調査を継続的に行ってきた。それによると、調査開始の2004年には年間平均値(以下同)で共和、民主、それに無党派(independent と呼ばれる)のそれぞれの支持率は30%超とバランスが取れていた。しかし、冷戦終結後のブッシュ政権時代に共和党支持率の低迷が始まり、その後は25〜29%に終始している。民主党は30%超を維持して共和党を押さえてきたが、共和党が失った国民の支持を取り込むことはできなかった。それはそっくり無党派に流れて、2007年以降、両党に代わって無党派が40〜45%の支持率を堅持する「第1党」となっている。

 2008年の初の黒人大統領の選出は民主主義の勝利と評価されたものの、結果的には共和党との分断、対立が激化、トランプ政権登場につながった。トランプ再選か、阻止か。
 民主党大統領候補の選出、7-8月の両党大会、11月4日投票へ。固いトランプ支持基盤が揺らぎ出したのだろうか。4割を超える無党派層はどう動くのだろうか。米国政党政治は復活するのだろうか。2020年の重い選択が迫ってきた。