<第2次トランプ米政権>「クーデター」とも言うべき法的制度への攻撃 多元的民主主義を根本から全面否定 FBIトップ更迭やUSAID解体 まるで元首のようなマスク氏の危険性な言動 報道の自由にも挑戦

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 米国の第2次 トランプ 政権が発足してから1カ月。 トランプ 大統領の下で アメリカの民主主義と政府のシステム、 法的制度などがかつてない危機にさらされている。実業家イーロン・マスクなどの超富裕層がトランプ氏と共に、多元的な民主主義国家の理念を根本から全面的に否定し、クーデターとでも言うべき 攻撃を行っているといえる。この間、トランプ 政権は 連邦捜査局(FBI) のトップの更迭や司法省職員の排除、国際開発局(USAID)の解体など着手、また 最高裁 からすでに与えられた「大統領への免責特権」を最大限に活用できる環境を整えた。

 米月刊誌アトランティックは「イーロン・マスクは大統領ではない。しかし、外国生まれで、選挙で選ばれたわけでもなく、議会の承認も受けていない億万長者が、アメリカ連邦政府に対して強大な影響力を行使し、情報や決済システム、人事管理を掌握しつつあるように見える」と指摘、「これはまさに行政クーデターと言っても過言ではない」と非難している。

X通じ意見発するマスク氏にメディアは警戒

 マスク氏はSNS、特に自身が買収したX(旧ツイッター)を通じ、政治や社会問題に関する意見を頻繁に発信。特に、米国の移民政策、電気自動車(EV)の補助金、人工知能規制など、自身のビジネスと関連するテーマについの発言がメディアや政治家の間で注目され、実際の政策議論に影響を与えようとしている。

 特に注目されるのは、ロシアのウクライナ侵攻の際には、自社のスターリンク(米衛星インターネット接続サービス)をウクライナに提供しながらも、その利用制限について独自に判断を下したことだ。また、中国や中東諸国の指導者と会談し、ビジネスだけでなく地政学的な問題にも発言しており、まるで国家元首のような言動に米メディアほ警戒している。

 マスク氏が率いる企業、特にスペースXやテスラ、Xは、政府機関や社会全体に対して強い影響力を持っており、スペースXのロケット技術は米国の宇宙開発や軍事戦略と密接に関わり、Xは言論の場として政治的な議論を左右するツールになっている。マスク氏の決定が国家レベルの意思決定に匹敵する影響を持つ危険性がある。

USAIDは「犯罪組織」「悪」とマスク氏  

  トランプ氏は、マスク氏らをトップに据えた「政府効率化省(DOGE)」を通じて政府支出の削減を進めており、マスク氏はXでUSAIDを「犯罪組織」や「悪」と呼び、「この機関は消滅すべきだ」と投稿している。

 米国の主要な対外援助機関であるUSAIDのウェブサイトが閉鎖され、2人のトップセキュリティ担当者が停職処分を受けた。トランプ氏が「過激な狂人が運営している」と発言したためだ。援助関係者、外交官、議員らは、USAIDをめぐる一連の不穏な動きを懸念している。ウェブサイトの閉鎖に加え一部の職員がメールへのアクセスを失い、停職処分を受け、USAIDが国務省に統合される可能性も浮上している。

 USAIDは、世界に約1万人の職員を抱える独立機関で、米国の対外援助および開発プログラムを担当している。前政権では、バイデン大統領がUSAID長官を国家安全保障会議(NSC)に格上げしていたが、トランプ氏は新たな長官を指名していない。

 トランプ政権は、米国の対外援助を「アメリカファースト」政策に沿ったものにする意向を明確にしている。USAIDが国務省に統合されれば、従来の開発援助や支援プログラムに割かれる予算が減少するだろう。米国の対外支出は削減されるが、人道的支援が縮小し、中国がその空白を埋める事態を招く恐れがある。

 元オバマ政権のNSCおよび国務省法律顧問室に勤務していたテス・ブリッジマン氏は、「トランプ政権は、議会の承認なしに、どこまで行政の機能や政府の規模を変えることができるのかを試しているようだ」と指摘。 「議会が承認しておらず、予算も割り当てられておらず、さらに議会が明確に禁止している事項に関しても、政権が一方的に行動しようとしているのは明らかだ」と述べ。

危機感強めるリベラル勢力

 こうした動きに民主党や、リベラル勢力は危機感を募らせており、元労働長官だったリチャード・ライシュ氏は「トランプ・バンス(副大統領)・マスク政権」の行動を「クーデター」と呼ぶべきだと強調。彼は、主流メディアがこの事態を「クーデター」として報道しないことで、その重大さが伝わっていないと指摘している。

 ライシュ氏は、マスク氏とその取り巻きが法的権限なしに政府の機密データにアクセスしていることを問題視。彼らは、連邦政府の支払いシステムやその他の機密データシステムに侵入し、コンピューターコードを収集している。このデータは社会保障やメディケアの支払い、インフレや雇用の統計測定に使用される重要な情報だ。

 さらに、「トランプ・バンス・マスク政権」がほぼすべての連邦予算を凍結していることも違法であり、憲法違反であると強調している。予算の決定権は議会にのみ与えられており、この凍結措置は法的権限を持たない者が民主主義を乗っ取ろうとしていることを示していると訴えている。

 また、トランプ政権が連邦裁判所の命令に従わないことも問題で、連邦司法裁判所が行政の行動の合法性や憲法適合性を最終的に判断する権限を持っているにもかかわらず、政権はこれを無視している。例えば、ある連邦判事が数十億ドルの連邦助成金を支払うよう命じた判決に従わなかったことを厳しく非難したが、バンス氏はこれに対し、「判事は行政の正当な権限をコントロールすることは許されない」と発言している。

 ライシュ氏は、これらの行動がすべて「クーデター」の一部であり、主流メディアがこれを正しく報道しなければ、アメリカ国民はこの違法かつ憲法違反の事態に対し、多数派として立ち上がることができないと警告している。

「きわめて危険な時代」

 一方、民主党のバーニー・サンダース上院議員は2月11日に米上院議場で演説、「議長、私たちは極めて危険な時代を生きている。未来の世代は、この瞬間―私たちが今何をするのか―を振り返り、私たちが寡頭制と権威主義の拡大する脅威に対して民主主義を守る勇気を持っていたかどうかを記憶するだろう」と訴えた。

 サンダース氏は「私たちはリンカーンの描いたアメリカの未来に立つのか、それとも、この国を「億万長者の、億万長者による、億万長者のための政府」に変えてしまうのか」と問いかけた。

 その上でこう強調する。「しかし、私たちが懸念すべきなのは寡頭制だけではない。今、アメリカの最富裕層3人の資産は、社会の下位50%、つまり1億7000万人分の総資産を上回っている。超富裕層とその他の人々の格差はますます広がり、今日のアメリカはこれまでにないほどの所得・富の不平等を抱えている。さらに問題なのは、トランプ大統領の下で私たちが急速に権威主義へと向かっていることだ。権力はますます少数の手に集中している。今まさにこの瞬間、マスク氏――世界で最も裕福な男――は、労働者階級や社会的弱者を保護するために設立された米国政府の主要機関を解体しようとしている。これらの機関は米国議会によって設立され、維持・改革・廃止の判断を下すのは議会の責任だ。彼の行為は明らかに違法であり、違憲だ。阻止しなければならない」

「米に見捨てられるウクライナ」

  第二次トランプ政権の発足から1カ月の時点で、政権の外交政策は「アメリカ第一主義」を前面に押し出し、同盟国や他国との関係に緊張をもたらしている。特に、ロシアとの関係改善を優先する姿勢や、中国に対する強硬な経済・軍事政策は、国際社会における米国の孤立を深める可能性があり、各国との協調関係の再構築が求められるだろう。

 トランプ氏はロシアとの関係改善を目指して、ウクライナに対しては停戦協議の受け入れとNATO加盟の棚上げを求める一方、ロシアには経済制裁の緩和を示唆している。このようなロシア寄りの姿勢は、欧州諸国との緊張を高める要因となった。

 国際政治学者の藤原帰一氏は次のように論じる。「トランプにとってウクライナを支援し続ける意味は乏しい。今、トランプ政権は侵略の犠牲者であるウクライナを頭越しにして米ロ両国の主導による停戦交渉を進めつつある。ウクライナは米国から見捨てられようとしている。米ロ主導の停戦はロシア政府にとっては念願の実現だが、ウクライナは、その安全がNATO(北大西洋条約機構)によって保証されない限り停戦に応じる可能性は低い。米国以外のNATO諸国にとってロシア優位のウクライナ停戦はロシアによって自国の安全が脅かされる懸念を高めてしまう」

 また、ウクライナのゼレンスキー大統領は、サウジアラビアで行われた米ロ会談からウクライナが除外されたことを受け、トランプ氏が「ロシアによってつくられた偽情報空間に生きている」と批判した。これに対してトランプ氏はゼレンスキー氏を「独裁者」と呼び、「ひどい仕事をしている」と新たな批判を展開。また、ゼレンスキー氏が「選挙を拒否している」と非難した。しかし、ウクライナは2022年2月のロシア侵攻以来戒厳令下にあり、選挙が停止されているだけだ。

  トランプ政権は、ウクライナへの軍事支援継続の条件として、停戦協議の受け入れとNATO加盟の棚上げを要求、ウクライナの主権や安全保障に対する懸念を引き起こし、ウクライナおよび欧州諸国からの強い反発を招いている。

 トランプ政権は、NATO加盟国に対して防衛費の増額を強く求め、防衛費基準を満たさない国への防衛義務を留保する姿勢を示している。また、欧州諸国からの輸入品に対しても関税の引き上げを検討しており、これらの政策は欧州との関係悪化を招く可能性がある。 トランプ氏は、中国製品に対して60%の関税を課すと明言、経済的なデカップリング(切り離し)を推進し、軍事的・政治的圧力を強化して、中国共産党の指導体制の弱体化を目指す姿勢を示しており、米中関係の緊張が一層高まる懸念が高まっている。 トランプ政権は、日本の防衛費増額や反撃能力(敵基地攻撃能力)の導入を評価し、日米同盟の強化を図っている。しかし、経済面では農産物の輸出拡大や自動車の輸出規制を目指して貿易交渉を持ちかけており、関税の引き上げが日米間の貿易に影響を及ぼす可能性がある。

一層深まるメディアとの緊張関係

 トランプ氏は、再選後も自身に批判的な報道機関を「フェイクニュース」と呼び、信頼性を否定。特に、ニューヨーク・タイムズ、CNN、ワシントン・ポスト などの主要メディアを名指しで非難し、これらの報道が「偏向している」と主張している。彼はXや自身が立ち上げた「Truth Social」などのソーシャルメディアのプラットフォームを活用し、メディアやジャーナリスト個人に対する攻撃的な投稿を頻繁に行っている。

 トランプ氏は、記者会見やインタビューの場で、自身に批判的な質問をする記者に対して攻撃的な態度を示すことが多く、質問を遮ったり、記者を侮辱する発言を行うこともる。これにより、メディアとの緊張関係が一層深まっている。再選後、トランプ氏は「名誉毀損法の強化」や「報道機関のライセンス剥奪」など、メディアに対する規制強化を示唆する発言を行っている。これらの発言は、報道の自由に対する脅威として国内外で懸念を引き起こしている。トランプ氏は、選挙集会やSNSを通じて支持者と直接対話し、メディアへの不信感を共有。支持者の結束を強化して批判的な報道に対抗する姿勢を鮮明にしてきた。これらの行動は、トランプ氏がメディアを「敵」と見なし、報道の自由や民主主義の原則に対する挑戦だ。

メキシコ湾名称巡りAPの取材排除

 特にトランプ氏は、AP通信がメキシコ湾の名称をアメリカ湾に変更する大統領令に従わないことを理由に、APに対する取材制限を続けおり、APの記者をホワイトハウスの大統領執務室や大統領専用機「エアフォース・ワン」への取材から排除した。

 ホワイトハウスのブドウィッチ副首席補佐官は、APの決定が「分裂を招くだけでなく、誤情報への傾倒を露呈させるもの」と批判し、取材制限の正当性を主張。  これに対し、APは政府が報道機関の用語使用を指示し、従わない場合に報復することは、憲法修正第1条で保障された報道の自由に対する侵害であると反論している。

                                (了)