コラム「番犬録」第10回  「決断と前進」の高市タカ派内閣誕生 安倍晋三内閣の再来目指す 右派団体は大喜び 「現代の治安維持法」といわれるスパイ防止法案可決の可能性高い トランプ訪日で防衛費大幅増へ 日本の政治大きな岐路に

投稿者:

 石破茂氏の退陣表明から約1カ月半、ようやく10月21日、高市早苗前経済安全保障担当相が日本の憲政史上初の女性の首相に就任した。自民党の旧安倍派を中心とする右派により仕掛けられた参院選過半数割れを口実にした〃石破おろし〃が成功。自民党総裁選でのタカ派の高市氏の勝利、立憲民主党がもくろんだ日本維新の会や国民民主党との「野党統一候補」の擁立劇、「政治とカネ」をめぐる公明党の連立政権離脱、予想外の自民と維新の連立ーと7月の参院選以降、自民党の身勝手から起きた政局はめまぐるしく動いた。

 この間、約3カ月、政治の空白が続き、国民が苦しむ物価高などで政府の対応は遅れた。このような、すったもんだの末に誕生した高市自維連立政権。早速、「決断と前進」を掲げてスタートしたが、内閣の陣容は安保防衛問題や外国人対策などで、安倍晋三政権の再来かと思わせる「高市カラー」と呼ばれる保守色やタカ派色の強いものになった。27日にはトランプ米大統領が来日し、懸案の「防衛費の増額」などがテーマとなり、早速、高市政権の力量が試される。

 高市政権誕生で一番喜んだのは、もちろん「高市氏を首相に」と訴え、右派雑誌などで石破内閣を中国にすり寄る〃極左政権〃などと批判してきた右派団体かもしれない。20日夜、都内で開かれた高市氏の自民党総裁就任を記念する集会には約400人が参加。保守系の国会議員や識者が次々と登壇した。

 安倍政権を支えた改憲を目指す右派団体「日本会議」の谷口智彦会長は「願ってもないことが起きた」と公明党の連立離脱を喜び、「(高市氏には)とにかく二つやってもらいたい」と述べて「男系皇統の永続的な維持と改憲」を要望。参院選で参政党候補を応援した田母神俊雄・元自衛隊航空幕僚長は「スパイ防止法をぜひ制定してもらいたい」と述べるなど会場から拍手が上がった(東京新聞22日付の「こちら特報部」)という。谷口氏は安倍氏のスピーチライターで「奈良公園で外国人がシカを蹴った」という高市氏の総裁立候補所見などで「スピーチ監修」をしたと、週刊文春が報じて入る人物だ。総裁選告示日前日の9月21日には都内のホテルで開かれた高市氏の決起集会に参加し、高市氏と対談した右派論壇での極右論客として知られるジャーナリストの櫻井よしこ氏も「希望の持てる日本を実現してほしい。もうすぐその未来がやってくる」(ユーチューブ「高市早苗チャンネル」)と激励している。

 21日に発足した高市内閣。自民党役員人事で見られたような〃論功行賞〃一色では必ずしもなく、総裁選の決選投票で争った小泉進次郎氏(防衛相)と支持した林芳正氏(総務相)を閣内に入れるなど一応バランスに配慮した様子がうかがわれる。

 ただ、保守色が強い高市氏の総裁選推薦人の片山さつき氏(財務相)や小野田紀美氏(経済安保相)は過去にその発言が問題になったことがある。「生活保護を受けることが恥だと思わないことが問題」(12年の片山氏のブログ)。「指定感染症になれば、治療費は公費になる。それ目当てで日本に来るものが現れることは容易に想像できるのに」(20年のコロナ禍の際のX=旧ツイッター)。特に小野田氏は高市政権の目玉のひとつ、「外国人との秩序ある共生社会推進担当」を兼務する。過去のことであれ、このようなことを言う人が外国人問題を担当して大丈夫なのだろうか。そもそも、20日に調印された自民と維新の連立政権合意書の「人口政策及び外国人政策」には、「外国人との共生」という言葉はいっさいない。「司令塔として担当大臣を置く」としたえ上で、外国人規制ばかりが並んでいる。かえって「排外主義」を助長しないか心配である。

 官房長官となった木原稔氏は岸田政権で防衛相をつとめ、防衛費増額をも目的とした安保関連3文書と防衛装備移転3原則で与党協議の実務を担い、高市氏とともに維新連立工作をやったと報道されるほど、高市氏と親しい人物だと言われている。木原氏も「教育勅語を礼賛した」として野党から問題にされたり、防衛相時代には衆院補選の応援演説で「(自民党候補を)応援していただくことが、自衛隊の苦労に報いる」と発言。自衛隊の政治利用だと批判された。また、子ども政策担当相の黄川田仁志氏も総裁選で高市陣営の選対事務局長をつとめ、高市氏の立候補会見で司会を務めた際に、質疑応答で「顔が濃い方」「顔が白い、濃くない方」と記者を指名して批判を浴びたことは最近のことだ。このとき、高市氏は記者団に2度も謝罪している。この4人とも、高市氏の事実上の側近であることだ。いくら気に入っているからといって、このような不用意な発言をする人物を大臣に抜擢することに問題はないのか。

 まだまだ、高市政権には突っ込みどころはあるが、高市氏が女性をないがしろにしてきた政界で苦労し、大変な努力を重ね、首相にまでのし上がってきたことには敬意を表したい。21日夜の記者会見。初閣議などがあり、約45分間だったが、高市氏は一部でプロンプターを見ることはあったものの、ほとんど自分の言葉で語り、一応無難にこなしていたと思う。ただ、マスメディアは当面〃ハネムーン期間〃ということで緩い質問しかしないことが慣例になっているそうなので安心しない方がよい。それにしても、21日の会見の質問は緩すぎた。内閣記者会の姿勢が問われる。今回はすべて高市政権の誕生とそれまでの政党間の駆け引きの問題でのフェイスブック投稿となった。

▼立憲に野党第1党としての矜恃はないのか

 「男女関係に例えるのは不謹慎」と言われそうだが、もともと「嫌いだ」と思っている相手をどんなに口説いても、さらに逃げていくだけ―。これは「恋愛術」のひとつの真理である。

 立憲民主党は政権交代のめったにないチャンスと考えての行動なのだろうが、国民の玉木雄一郎代表にあまり執着して深追いすると、「脱原発」などでの中核的な立憲支持者を失うことにならないか。それが心配だ。失礼ながら、玉木氏にそれほど魅力があるとも思えない。

 そもそも、高市自民党は、排外主義的な参政党の躍進で、もっと右バネに行こうとの自民党党員による総裁選のサプライズでできたことを改めて思い出そう。

 高市自民は公明党が政権離脱するのを見越していた節もある。公明党は総裁選でその排外主義ぶりを心配してか、高市政権誕生への不安を自民に表明していたからだ。

 選挙に弱い自民議員は公明党頼りなのは当然だが、タカ派は高市カラーを打ち出すためには、何かとブレーキをかけようとする公明党が邪魔だったのではないか。

 そこで、安全保障や原発などで考え方が近い国民や維新を取り込んだ方がベターと考えた。そう考えた方が分かりやすい。連立しなくとも、閣外協力的に政策連携を深めていけば、自民、維新、国民で258議席。過半数の233議席を超える(いずれ連立を視野に)。こういう構図を描いている自民党議員もけっこう多いのではないか。

 正直言って、每日、テレビに出まくり、やや傲慢な態度で持論を述べる玉木氏を見るにつけ、国のトップに就く人物とは、とても思えない。また、ポピュリストにも見える。ネット戦略にたけた国民民主の人気がなぜか高いが、立憲は野党第一党であることの矜持を忘れてはいないか。

 一方、高市早苗氏。昨日、都内のイベントで、「自民総裁にはなったけど、首相になれないかもしれない、といわれているかわいそうな高市早苗」と言って会場を沸かせたという。公明党の政権離脱で落ち込んでいると思いきやこれだ。

 このまま進めば、女性初の「高市首相誕生」となる可能性が高い。私はこういう言い方をする高市氏を人間としてあまり好きになれない。

 遅くとも、来週には結果が出る。どちらにしろ、まとめる力を持つ剛腕のリーダーが見当たらない以上、なるようにしかならない。(10月15日)

▼首相交代劇の主役交代

 またたく間に「首相交代劇」の主役が変わった―。政治の世界の「一寸先は闇」とはまさにこのような状況を指すのだろう。

 テレビの情報番組の主役が10月15日、この一日で、玉木氏から吉村洋文日本維新代表に。高市新総裁が急きょ上京した吉村氏と会談、連立政権を見据えた政策協議を始めることで合意したからだ。

 公明党の政権離脱というチャンスに、これまで「首相就任」を切り札に立憲、国民、維新の3党で組んで高市自民党に対抗するという立憲の野田佳彦代表のもくろみは崩れた。

 17日付の朝日新聞の「時時刻刻」が面白い。記事によると、10月10日、公明党の政権離脱、翌11日、高市氏が旧知の維新の遠藤敬国対委員長に電話で「もう国民は来ないと思う。協力して」と懇願。政権維持に向けて焦りがにじむ高市氏に「政策をしっかりやってくれるなら」と助け舟を出した。

 維新は早速、吉村代表と藤田文武共同代表が協議。吉村氏は「副首都構想」実現の好機とみて、連立協議入りを即決した。これで高市氏も国民から維新にかじを切った。高市氏は直接電話し、吉村氏から「本気で話を聞きます」との言葉を引き出したと書かれている。やっぱり、高市氏はしたたかだ。絶対に首相就任をあきらめない死に物狂いの執念すら感じる。

 その一方で維新との太いパイプを持つはずの菅義偉元首相らの協力は得られないほど党内基盤が弱いことも分かってしまった。首相になっても、問題は自分で抱え込むことになるのか。男社会でやはり、女性政治家は大変だと改めて感じた。また、かつての主役、玉木氏。「こんなことになるなら、3党会談をやるな。(維新は)ひどい二枚舌だ」と批判した。おそらくもう今回は首相の椅子は回ってこないだろう。玉木氏にとって「首相」は幻となったかも。
 
 いまの主役、吉村氏。当然の成り行きだが、テレビ番組に引っ張りだことなっている。

 今朝のテレビ朝日の番組「羽鳥慎一モーニングショー」に出演。12項目の要求を自民党に突き付けている。このうち「国会議員定数の削減」、それも「21日開」催の臨時国会までに法案が出せないようならば、連立はできない」と高い球を投げた。ただ、このところ、不祥事などが相次いで国政選挙での比例得票率が大きく下がっている維新。だからこそ、いま、維新内では「救国内閣の先導役になろう」との声も出ているという。勝ち馬に乗ろうという野心も大いにありそうで、自民との連立の可能性は高い。

 気になるのは、フェイスブック友達が指摘した自民、維新、参政が連立した場合の議席だ。衆院は196+35+3で234と2議席野党を上回る。高市氏は参政にも協力を呼びかけている。維新が連立に加わると、参政党が国民民主なしでも過半数となるキャスティングボートを握ることになる。

 もともと、高市氏と参政党は考え方に親和性がある。「日本人ファースト」を掲げ、海外メディアの中では「極右」と位置付けるところもある排外主義的な振る舞いもする参政党。自民党は総裁選でも、右寄りにかじを切り、高市総裁を生んだともいえる。もし参政党が政権入りしたらー。期待する支持者もいるのだろうが、考えるだけでも憂うつになる。いま、日本の政治は民主主義をめぐって大きな岐路にきている。

▼なぜか、〃応援団〃の櫻井よしこ氏の言うとおりの筋書きに

 自民党総裁選告示日前日の9月21日夜、都内のホテルで開かれた高市早苗氏の決起集会。〃高市応援団〃のジャーナリストの櫻井よしこ氏が「希望の持てる日本を実現してほしい。もうすぐその未来がやってくる」とあいさつ。これに対して、高市氏は「きょうは皆さんが愛してやまない安倍晋三先生の誕生日。憲法改正が実現せず無念の思いだったと思います。私の守りたいものは安倍先生と一緒でした。私も日本と日本人を愛している。大切な大切な日本を守っていきましょう」と訴えた。支持者であふれた会場は沸いた(ユーチューブ「高市早苗チャンネル」)。

 10月4日には、「小泉進次郎氏有力」とのマスメディアの事前予想が外れて高市氏が総裁に選ばれた。だが、10日、連立相手の公明党が「政治とカネ」の問題などを理由に政権離脱。立憲民主が「国民民主の玉木雄一郎代表も首相候補」とのアメを差し出して立憲、国民、維新の統一候補擁立を目指したが、維新に裏切られ、同18日には「高市首相選出へ」(朝日新聞)、「連立向け詰めの調整」(読売新聞)という事態にまで進み、野党の統一候補の協議はなくなった。このような経過は皆様ご存じの通り。

          ◇                    ◇

 私が興味を持ったのはそこではない。「選択的夫婦別姓反対」や「靖国参拝」などタカ派で知られる高市氏だが、なぜか、応援団の櫻井氏が決起集会で訴えた通りにこれまでの事態が進んでいることに気づいたからだ。

 それは櫻井氏が毎週、週刊新潮で連載を続ける「日本ルネッサンス」という記事。公明が政権離脱する前日の9日に発売された10月16日号は「日本再建、新たな連立を目指せ」との見出しで櫻井氏はこう書いている。

 まず、「党人事の次は政権の形を変える方向で準備を始めるのがよい」と前置き。「少数与党は連立なしに安定はしない。だが、注意すべきは連立相手と価値観を共有できるか否かだ。現在の自公連立のちぐはぐさを見れば、価値観の共有という基本を念押しせずにはいられない」として、「靖国問題」や「外国人問題」での公明党の考え方を批判。「わが国の外国人問題は主として中国人問題だ」と指摘し、「親中国」の公明党について「どこから見ても、自公連立は解消するのが日本国のためになると私は考えている」と主張する。

 その上で「皇室、憲法、自衛隊・安全保障について自民党の政策と大差はない国民民主も日本維新も立派に要件を満たしている」と結論している。

 ひとことで言えば、〃応援団〃としては、親中の公明党を切り、国民や維新と連立を組めと言っているわけである。これで、高市氏が与党の公明党よりも先に国民の玉木氏に極秘で会った理由が(必ずしも、単に油断しただけかも知れないが)何となく理解できる。

 もう少し、櫻井氏の言葉を続ける。これは公明離脱が決まった後の16日発売の10月23日号の「日本ルネッサンス」。この回は「公明党離脱は自民再生の大好機だ」との見出しで「思いがけないこの展開は、高市氏にとって大いなる幸運になり得る。連立解消は安倍元総理を含めて心ある政治家がやりたくてもできなかったことだ。それを、公明党自身が言い出した。自民党は真の意味での自立国家になるために、筋の通った施策を行えることになる」と〃親中〃と見立てた石破茂政権をボロクソにけなしながら、公明の離脱を大いに評価している。

 18日付の日本経済新聞によると、維新が連立にあたり「絶対条件」とした国会議員定数の1割削減について、衆院比例で50議席減ならば、小選挙区と合わせると、自民と立憲が1割以下にとどまるのに対して、比例選出議員の割合が高い公明や共産は25%減となり大きな打撃を受ける。特に公明は自民との選挙協力がなくなるのでそのインパクトは計り知れない。

 維新は「政治とカネ(裏金議員)」の問題から巧みに「論点」をずらしただけでなく、公明にも大きな打撃を与えるという〃高市政権援護〃の役割を演じたことになる。ただ、議員定数削減については、なぜか、すぐに国民民主も賛成したが、自民の中にも反対論があり、必ずしも簡単にはいかないだろう。

           ◇                  ◇

 櫻井よしこ氏といえば、高市氏と同じテレビのキャスター出身。右派論壇での極右論客として知られる。日本会議系と言われる国家基本問題研究所理事長や改憲組織「美しい日本の憲法を作る国民の会」共同代表をつとめる。以前に書いたが、総裁選で高市氏の「外国人が奈良公園でシカを蹴った」という話を監修したのは「安倍氏御用達ライターの日本会議会長谷口智彦氏」(週刊文春10月9日号)と合わせ、高市氏は「日本会議色」が強すぎないか。保守であることが問題なのではない。維新との連立(あるいは閣外協力もあるらしい)でますます、中道右派からも外れていかないか。まして、そうはならないことを祈っているが、参政党まで取り込んだら大変だ。自民党は過半数もとれていないのに、何か、右へ右へと突っ走っているようにみえてならない。週明けの21日は臨時国会開会日。18日のテレビ番組で維新の吉村洋文氏は「連立の可能性は50%」と言っており、その前日の20日まで「初の女性首相誕生」はまだまだ最後まで分からない。(10月19日)

▼かなり感じ悪い決着 自民と維新連立合意書に署名

 せっかくの「憲政史上初の女性首相誕生」がこれでは台無しではないか。国民の「政治不信」を増大させる、かなり感じの悪い決着だ。
 
 20日夕の自民党と日本維新の会との連立合意書に署名後の記者会見。委員会で各党の話し合いが行われているにもかかわらず、とうとつに維新の吉村洋文代表が突き付けた「国会議員の定数1割削減案」。首相になりたくて、なりたくて仕方がない自民の高市早苗総裁は「政治とカネ」より党内を説得しやすいとの考えからか、これを〃がぶ飲み〃し決着した。

 吉村氏にとっては、「議員の定数削減」はかつて、地元大阪で維新の独裁的支配を可能にした「成功体験」のある魔法の手口。これで国政でも復権しようとのもくろみなのだろう。したたかな高市氏はそのことを分かっていて自分の「首相就任」を優先して維新の提案に乗った。

 合意書では「衆院議員定数の1割削減。25年臨時国会で議員立法を提出、成立を目指す」となっている。維新は「身を切る改革」というが、公明党や共産党、れいわ新選組など、リベラル派や小さな政党には大打撃だ。日本の国会議員数はG7でも6位と世界の中でけして多いわけではない。経費の削減ならば、議員経費や政党助成金削減の方法もある。

 調印の様子をテレビで見た。してやったり、とほくそ笑む吉村氏。一方、高市氏は、これまで10日の公明党の政権離脱当初は、さすがに硬く怖い表情だった。それをマズイと思ったのか、メディアに登場するときには、作り笑いにその表情を変えていた。それがこの日ばかりは、「やっと思いがかなう」との安心感からか、ふだんよりも濃いめのメイクに本物の笑顔が浮かび上がっていた。

 公明党政権離脱の際は表情だけでなく、食べ物がのどに通らず、かなりやせてしまった、との報道もあった。しかし、議員宿舎に3日間こもり、自分の力で維新工作を進めていたらしい。このときの功労者が維新の遠藤敬国対委員長で早速「首相補佐官」に抜てきしている。こういう高市氏の手腕はたいしたものだ。

 普通のサラリーマン家庭に生まれ、女性を軽視する風潮が強い政界で、政治家としてのし上がり、ついに「首相の座」を射止めた高市氏。本来は祝福したい。また、これまでの努力やご苦労には敬意を表する。

 だが、高市氏の家族主義的国家観や「シカを外国人が蹴った」発言での排外主義的傾向、そして、総務相時代のテレビの「停波発言」など「保守」よりも「右派」ともいえる振る舞いは、ポピュリズム的要素があったとしても、おっかないし心配だ。「新自由主義的主張が多く、中道というよりも、自民党より右」と識者から指摘され、その立ち位置にいる維新と自民党が連立することは、もともと保守的な自民党がかなり右寄りの高市内閣に変わっていく、ということだろう。改めて、両党の合意書の内容を見て、そう思った。午後には、高市政権が誕生する予定だ。(10月21日)

▼自民からの〃造反〃期待外れ 衆院では決選投票にもならず

 リベラル派のジャーナリストや市民の一部に国会での首相指名選挙で自民党からの造反を期待する意見がSNSであふれていた。その気持ちは分かるものの、そういう結果にはならなかった。むしろ、衆院では、決選投票にすらならず、高市氏はマスメディアの予想を超える過半数の票を獲得している。

 立憲がもくろんだ、国民民主党の玉木氏を首相候補とする立憲民主、維新、国民の3党による「野党統一候補」の構想も、維新の裏切りで挫折した。もともと、玉木氏の国民民主や維新を立憲が「中道」と考えること自体が現実離れしている。

 両党とも、本来、政策が右寄りな上「政策ごとに是々非々」と言いながらも、ホンネは自民党にすり寄りたい気持ちがミエミエの政党であることを立憲は気づいていたはずである。

 それなのに、立憲が野党統一を呼びかけたのは、「政権を取る」とのポーズだったようにしか見えない。深追いして、維新に裏切られた。自民党に対抗する立憲はまだまだ、地道な地域に密着した活動が足りない。だから、全選挙区に候補者を擁立する体制すらできていない。
 
 「原発」と「安全保障」の問題は玉木氏の言う通り、本質的な問題であり、立憲が問われているのは、そこをどうするかにある。「脱原発」や「専守防衛」などでのコアな支持者の期待は裏切らないでほしい。

 今後、立憲は思った以上に自民党のブレーキ役だった公明党を選挙協力などで、取り込んでまず「比較第一党」を目指すところから始めてほしい。「立憲共産党」などと、右派からやゆされて及び腰となった共産やれいわとの共闘強化ももっと考えるべきだ。

 維新は自民党に逃げた。国民民主も「反高市」という点では頼りにはならない。むしろ「親高市」と考えた方がいい。今回の玉木氏のふがいない対応で選挙での躍進に陰りが出る可能性があると思う。野党が過半数を握っているというのは、いまや高市政権の登場で幻想であることがはっきりした。

 当面、高市自民党は支持率を上げていくだろう。ご祝儀相場で終わらず、国民的人気が高まることもあり得る。これを後押しするように「初の女性首相」ということで、マスメディアの翼賛報道も続くだろう。単独過半数を取るために、解散総選挙に打って出るかもしれない。

 安倍晋三元首相のあとを継ぐ高市氏は考えている以上に勉強家の上、政策通であり、やり手である。また、その政治手法は総務相時代のテレビの「停波発言」に見られるように、かなり、民主主義にとって、危険で強引なものになるかもしれない。

 例えば、27日に訪日するトランプ米大統領から防衛費大幅増額(GDP比3・5%)を要求されれば、もともと軍備拡張論者なので、師と仰ぐ安倍元首相のように丸飲みする可能性もある。現代の治安維持法といわれる「スパイ防止法」についても、自民と維新の連立合意書は「25年に検討を開始し、速やかに法案を策定し成立させる」と明記した。この法案には、国民民主や参政党も前のめりで、連立政権と合わせれば、多数派だ。法案可決の可能性は高い。このような恐ろしい法案を通させないためにも、反対する野党や市民の結束は欠かせない。高市政権の登場でいま、日本の民主主義がどうなるかが問われている。少し荒っぽい高市政権に対するスケッチだが、そうはならないことを祈る。