10月21日に首相に就任して以来、直後から日米、日韓、日中という一連の首脳外交をこなし、その成果もあってか、JNN(TBS系列)の調査で82%という非常に高い支持率をはじき出した高市早苗政権。11月4日から臨時国会の審議が始まり、7日からは予算委員会開始。早速、その初日に、米中衝突も予想される「台湾有事」について、「戦艦を使って、武力の行使を伴うものであれば、存立危機事態になり得る」との踏み込んだ答弁を行った。この問題では、歴代首相は中国との関係を意識して、見解を明確に示すことを避けてきたが、〃タカ派〃首相は「台湾有事」が存立危機事態に当たる可能性を初めて明言した。
高市氏は、10月31日の習近平主席との日中首脳会談で習主席側から「戦略的互恵関係」という言葉を引き出し、中国との安定的な関係構築を確認する外交上の成果を上げたはずだった。それが、会談翌日に台湾高官と会談して握手する姿の写真をわざわざSNSで発信、中国側から強い反発を招いたばかりだ。それに加えて今回の答弁。せっかく、築きつつあった日中関係を自らがぶち壊したことになる。首相としての資質も問われかねない振る舞いだ。
また、「排外主義とは一線を画す」といいながら、外国人の規制強化を打ち出すなど矛盾した政策も高市氏の支持層向けのメッセージなのだろう。高市氏は予算委初日の午前3時に秘書官を公邸に呼び異例の「未明勉強会」を開き、これを前日に番記者に知らせて「やってる感」をアピールするというしたたかさもみせつけた。一方で、林芳正総務相の「政治とカネ」の問題が文春砲で暴露され、連立相手の日本維新の会の藤田文武共同代表の税金還流疑惑を共産党の機関紙「しんぶん赤旗」日曜版に報道されるなど内閣スタートから1カ月も経たないうちにスキャンダルが相次いだ。11月9日、自死した兵庫県議への名誉棄損容疑で政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容疑者が兵庫県警に逮捕されたが、同党の斉藤健一郎参院議員を自民党会派入りさせたことに、すでに自民党兵庫県連から「破棄申し入れ」の動きが強まっている。「初の女性首相誕生」と注目を集めたが、その前途は多難である。
今回はこれらの高市内閣の動きに合わせ、自民党鈴木貴子氏が与党幹部でありながら、再審問題で法制審の在り方に〃懸念〃を示したことなどをフェイスブックに投稿した。
▼高支持率の内閣スタート 国民受けした外交パフォーマンス
一連の外交デビューを表面上はうまくこなしたので、世論調査の支持率はまだ伸びると思ったが、正直言ってここまでとは考えていなかった。少しびっくりである。
JNN世論調査で、高市内閣の支持率が82%となった。11月1日、2日の調査。これは10月の石破茂内閣の支持率と比較して38・3ポイント上昇し、政権発足直後の支持率としては、01年以降の政権で小泉純一郎内閣に次ぐ2番目に高い数字だという。不支持は14・3%だった。
TBS/JNNNのニュースを配信する公式ユーチューブ「TBS NEWS DIG」によると、高市氏のトランプ米大統領との首脳会談や中国の習近平国家主席との会談など一連の外交について、83%の人が「評価する」と答えた。「景気が良くなると思うか」は「良くなる」が58%、「良くならない」が23%で、防衛費を前倒ししてGDP比2%とすることについては「支持」が56%、「不支持」が33%だった。JNNは高市氏が総裁就任後の10月5日調査では「新総裁に期待する」が66%、「期待しない」が26%だったので、1カ月前から比べて16ポイントも一気に上がったことになる。
やはりこれは、7日間の一連の外交の成果なのだろう。私は高市氏が信奉する故安倍晋三首相の「まねっこ外交」をやったことや、「右派の高市カラー」を抑えた戦略がうまく国民にアピールしたのだと思う。それに、私も「おもてなし過多」などと批判したトランプ氏とのパフォーマンスも意外と国民受けして高市支持者を増やした可能性がある。首脳との会談でトランプ氏には満面の笑みを、逆に習近平氏には笑顔すら見せない硬い表情で対応したこともメリハリがきいている、と評価されたのかもしれない。それに加えて、テレビが高市氏の行動を逐一報道するという「高市翼賛報道」も支持率アップに貢献したと考えている。
高市氏は11月1日夜、訪問先の韓国・慶州での記者会見で「私が目指すのは『世界の真ん中で咲き誇る日本外交』。それを取り戻す取り組みはまだ始まったばかりだが、着実なスタートを切ることができた」(朝日新聞)と語っている。「日本よ、世界の真ん中で咲き誇れ」は安倍氏がかつて作家の百田尚樹氏(現在日本保守党の参院議員)との対談本の名前で「日本を取り戻す」は安倍氏が掲げたスローガンである。何もかも安倍氏だらけ。高市氏はそのレガシーを継承しようとしているのだから、当然といえば、当然なのだろう。
82%との高い支持率をはじき出した高市氏だが、当面、経済政策のほかに日本の民主主義の行方に大きな影響を及ぼしかねない二つのテーマをどうするのかが気になるところだ。
靖国神社に今後参拝するのか。一度、廃案になったマスメディアの統制も狙うといわれる現代の「治安維持法」とも危惧されるスパイ防止法をどうするのか。日本維新の会、国民民主党、参政党が法制化を主張し、高市氏自身も自民党治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会長だった今年5月、政府に導入検討を提言し、総裁選でも「外国勢力から国民を守るための法律がないということでは困る」(東京新聞)と訴えたといういわくつきの法案だ。また、高市氏はスパイ防止法と並ぶ重点政策として挙げる政府の情報活動を強化する司令塔となる「国家情報局の」創設に向けた検討を指示している。このようなものができれば、市民やマスメディアなどへの政府による監視強化につながる恐れがあり、とても同意できない。
俳優でタレントの坂上忍氏は週刊新潮に連載中(10月23日号)の「スジ論」「新総裁・高市さんに感じる『危うさ』」でこう書いている。
「私が彼女に対して怖さを感じたのは、高市さんが総務大臣だった際、衆院予算委員会で行ったこんな発言です。『政治的に公平でないと認定され、何度も繰り返された場合には電波停止もあり得る』と。で、高市さんはどのように弁明したかといいますと『法律上の可能性を述べただけであり、圧力をかけたわけではない』とおっしゃったのです。私はこの言葉を聞いた時『ああこの人は権力を与えてはいけないタイプの人なんだな』と」。
坂上氏の発言に同感である。少数与党といっても、これらの恐ろしい政策に野党が賛成し、多数をとるという状況にあることを確認しておきたい。(11月3日)
▼せっかくの外交の成果もだいなしに 側近は〃裏金議員〃
これでは、せっかくの外交の成果もだいなしになるかもしれない。
一連の外交デビューで、10月31日、中国の習近平国家主席と初会談。習氏側から「戦略的互恵関係」という言葉を引き出し、中国との安定的な関係構築を確認する外交上の成果を上げたはずの高市早苗首相。翌11月1日、韓国・慶州で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に台湾代表として参加した林信義元行政院副院長(副首相)と会談し、SNSで代表と握手する写真とともに、「日台の実務協力が深まることを期待します」と書きこんだ。これに中国側が強く反発している。
東京新聞によると、中国外務省は同日夜、「SNSで派手にあおり、『一つの中国』原則に背いた。極めて悪質であり、日本側に強く抗議した」と発表。台湾問題を「中国の核心的利益の中の核心」と位置付け「言行を慎むべきだ」と歴史問題も絡めて強く批判したという。
「台湾問題」は日中にとって、非常にセンシティブな問題。高市氏がこのような行動をとれば、中国側が怒るのは分かっていたはずである。特に中国はメンツを重んじる国柄だ。習氏は高市氏の行動により、メンツをつぶされたと考えるのが自然だ。中国には毅然とした態度を支持者たちに示したかったのだろうが、それでは、何のために日中首脳会談をやったのか。高市氏の「中国嫌い」は理解しているが、「国民のための外交とは何なのか」や国益を本気で考えてもらいたい。やることが幼稚すぎる。日中関係に大きな影響を及ぼさなければいいが。とても心配である。
首相のこういう行動を止めるのが、側近の本来の役割だ。その側近にも問題が起きている。
東京新聞に載った慶州での時事通信配信の記者会見の報道写真を見ると、高市氏の後ろに立っているのが、佐藤啓官房副長官(参院議員)。高市氏と同じ奈良県出身のお気に入りの元総務官僚。高市氏が首相になる前にやっていた自民党治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会会長の事務局長を務めるなど、側近中の側近らしい。
東京新聞によると、佐藤氏は現在2期目の参院議員で2022年7月の奈良での安倍晋三元首相銃撃事件は、佐藤氏の応援演説中に起きた。自民党派閥裏金事件に関係した旧安倍派のひとりで、野党側の反発から、11月5、6両日の参院本会議での首相陪席を認められなかった。それでも、高市氏は〃子分〃の佐藤氏をかばい続けている。
4日から国会での各党代表質問が始まった。高市氏の試練はこれから始まる。(11月4日)
▼維新の藤田共同代表が逆ギレ 税金還流疑惑の徹底解明を
外交で高支持率をはじき出した高市早苗首相。11月4日から、国会審議が始まったが、早速。頭の痛い問題が持ち上がった。連立を組んだ日本維新の会の藤田文武共同代表の税金還流疑惑だ。共産党の機関紙「しんぶん赤旗」日曜版が報じた、
赤旗は、藤田氏が公設秘書が代表を務める会社にビラやポスターの印刷を発注し、税金が原資の政党交付金や調査研究広報滞在費などから7年半にわたり、計約2千万円を支出していたと指摘した。
秘書の会社は印刷を別の業者に外注していたが、4日に開いた記者会見で藤田氏は「守秘義務」があることを理由に利ざやがいくらあるのかについて明らかにしなかった。
会見のやり取りをユーチューブで見た。この問題を2日にすっぱ抜いた赤旗を「共産党のプロパガンダ」などと、ののしり、質問するフリーの記者に対して、(仲間の記者が秘書の会社を取材したことに)「住居侵入罪だ」などと言って逆ギレしていた。とても連立与党の共同代表とは思えない振る舞いにビックリした。
この問題でもうひとつ驚いたのは、取材した赤旗記者の名刺をSNSで公開したことだ。携帯やメルアドの一部はさすがにぼかしていたそうだが、赤旗編集部には嫌がらせが続いたという。
藤田氏は「誤解や疑念を招くというご批判は真摯に受けたい」として今後は秘書の会社に発注しない、と明言した。結局、「まずいことをした」との自覚はあるようだ。
専門家によると、どうも法の不備もあり、今回の件は、違法とはいえないようだ。違法とは言えなくとも、政治家として「不適切な行為」であることは確かで、コンプライアンス上も大きな問題がある。維新の吉村洋文代表は「党の内規を改め、今後は秘書が代表を務める会社への公金支出を禁じる」としたのは当然である。
さらに每日新聞が、藤田氏の秘書の会社に維新の大阪府総支部が「ビラ作成費」名目で約100万円を支出していたことが24年の政党交付金使途等報告書で判明と報じ、他のマスメディア各社もこの問題の追及を始めた。
維新はいま、「身を切る改革」などと、少数政党つぶしの衆院議員の定数削減などに力を入れている場合ではない。他の議員にも同様ケースがあるかもしれない。党の存亡をかけてまずこの問題を第三者委員会を設けて徹底的に調査すべきである。藤田氏が逆ギレしているときではない。(11月7日)
▼異例の未明からの予算委事前勉強会 記者には事前に広報
11月7日、就任後初の衆院予算委員会に臨んだ高市氏。中国による台湾侵攻をめぐり、「戦艦での武力行使が伴えば、台湾有事は存立危機事態になり得るケース」と踏み込んだ。高市氏は、安倍晋三政権で確立された「集団的自衛権」の行使が可能となる認識を示したことになる。(ジャーナリストの春名幹男氏によると、世界で現役「戦艦」はすでに過去の者であり、高市氏は間違っているとフェイスブックに投稿。全くその通り。「軍の海上艦艇」などの意味なのだろう)。
中国を名指しして、自衛隊の防衛出動につながる事態の想定を現職首相が明らかにするのは、極めて異例(東京新聞)。集団的自衛権の行使は厳しく制約されるべきだが、高市氏の見解は「政府による拡大解釈に道を開くもの」(朝日新聞)で、今後の日中関係にも影響を与える可能性がある。
10月31日に行われた習近平主席との日中首脳会談の成果をぶち壊しかねない答弁。朝日新聞の「時時刻刻」は、「外務省幹部は『首相が自身の言葉で説明された』と語り、事前に事務方が用意した答弁ではなく、首相自身の考えとの見方を示す」と書く。
高市氏はこの日午前3時から、首相公邸に入り、秘書官全員を集めて、約3時間半、予算委に備えた「勉強会」を開いた。この時に書き直したのだろう。
未明から勉強会をやったことを野党から指摘されると、高市氏は「答弁書が出来上がる時間が3時だった」と弁明。ただ、首相番の記者には、このことを前日に広報している。
「台湾有事」の答弁はわざわざ事務方の書いた文章を直したもので、「確信犯」だ。また、「午前3時勉強会」もこれだけ一生懸命やっている、という自己アピール。肝いり政策の「労働時間規制の緩和」にもつながる。
こういうことをする高市氏はすご腕だと思うものの、やはり、高揚しすぎではないのか。首相になったら、「国益」を考えて持論を抑制する知恵も必要だ。
連立前に維新の会共同代表の藤田氏と高市氏が議員宿舎で政策協議をした際、藤田氏は高市氏に「狂ってください」との言葉を投げ掛けた。この言葉は、幕末の長州で「松下村塾」を主宰し、明治維新に関わる若者らを育てた吉田松陰の「諸君、狂いたまえ」にちなむ。このとき、高市氏は「分かりました」と応じた(朝日新聞)そうである。そう言えば、高市氏の所信表明演説にも「地域未来戦略」の中で吉田松陰の言葉が登場する。
藤田氏によると、「諸君、狂いたまえ」の意味は「狂気ともいえるほどの情熱をもって常識から外れる者は、真に行動を起こしている愛すべき存在である。一方、頭だけで考えて理屈のみを述べる人間は、結局、何も行動せず、恐ろしい」(産経新聞)と記者会見で解説している。
今回の高市氏の予算委答弁と「狂って」のエピソードは直接、関係はない。だが、高市氏は藤田氏とこのような話もしているのか、と驚くとともに、高市氏の〃答弁への決意〃という意味で紹介した。(11月8日)
▼鈴木貴子氏が再審問題で「おかしいことはおかしい」と指摘 一刻も早く法改正を
自民党広報本部長の鈴木貴子衆院議員が11月7日の予算委員会で再審法改正問題で法制審議会の在り方に「懸念」を表明した。テレビ中継を見ていたが、例え、与党幹部でも、おかしいことはおかしいと指摘する姿勢に共感した。
鈴木氏の父宗男氏も自民の参院議員。かつて、受託収賄罪などで実刑判決を受け、服役し、現在、再審中。貴子氏は再審無罪が確定した袴田巌氏を救援する議連のメンバーでもある。
予算委で貴子氏は「我が家は家宅捜索を経験した。捜査官は段ボールを開いて、当時中学生の私の英会話の学習テープ、ティッシュ、私の通知表を持って行こうとした。何のための押収だったのか」(朝日新聞)と当時の思いを語った。その上で、再審裁判で無罪になった袴田氏に触れ、「(袴田氏には)ひとり息子がいる。58年間断絶状態だ。これが冤罪のもたらす事実。返ってこない時間がある」と再審法の見直しを訴えた。
また、「法制審では冤罪被害者からの聞き取りが袴田氏など二つの事件(もうひとつは福井中3殺害事件の前川彰司氏のケース)だけで、被害の実態を十分に把握できていない」と問題提起。再審請求の長期化の要因とされる検察官の不服申立に関して「制限する方向で議論が進んでいない」と指摘し、「法制審任せでなく、誰のための改革かという原点に立ち返り、国民の信頼に足る司法制度にする意思を政治が示すべきだ」と訴えた(西日本新聞)。
これに対して高市氏は「再審制度の見直しについて、所信表明に盛り込んだ。法制審の議論を見守ると言わざるを得ないが、政府の責任で迅速に検討を進める」と答弁している。これが前向き答弁なのかどうかは分からないが、少なくとも、高市氏の頭の中には再審法改正問題があることは確かなようである。
法相の諮問機関である法制審議会は袴田事件の無罪確定を受けて4月から審議を始め、これまでに部会での議論が一巡している。最大の焦点は14項目の論点のうち、①証拠開示の在り方②検察官の不服申立の禁止である。これまでは、刑訴法の中に、再審請求があった際に、裁判所がいつまでに何をしなければならないかについての規定はなく裁判官次第だった。
新聞報道などによると、証拠開示のルール化について、条文に明記すること自体は部会の中で異論は出ていない。ただ、開示の範囲を限定する案と幅広くする案と2案あり、検察官や裁判官、学者委員を中心に「限定案」が多数派になっているという。日弁連の委員は幅広い証拠開示の必要性を強く主張しているが、議論は平行線のままだ。このままだと「現状よりも後退する恐れがある」と日弁連委員の鴨志田祐美弁護士は危機感をあらわにしている(東京新聞)。「不服申立の禁止」についても「法的安定性」を重んじる検察側委員らから強い反対があるという。
法務省は年明けにも答申案をまとめ、来年の通常国会の提出を目指す。超党派の議員連盟が幅広い証拠開示規定や検察官の不服申立の禁止を盛り込んだ改正案をまとめ、法案を提出している。議連の会長や幹事長は自民党だが、保守系議員の反対で自民はこの改正案には加わらなかった。無実なのに約48年も獄中にあった袴田氏の無念の思いを考えれば、再審時の幅広い証拠開示や検察官の不服申立禁止は当然である。
冤罪は警察、検察、裁判所、それに時にはマスメディアも加わった「国家ぐるみの犯罪」である。飯塚事件など冤罪を疑われながらも死刑が執行されてしまった事件もある。法制審の答申を待つのではなく、超党派議員連盟の法案を一刻も早く国会審議し成立させるべきである。(11月9日)