「関西電力の第三者委員会調査報告書」原発フィクサーと関電との〃利権構造〃をあぶり出す 読み応えある報告書

投稿者:

 3月14日に公表された関西電力の第三者委員会調査報告書は、強制力のない任意調査という限界がある中で、ヒアリングや電子メールの復元などデジタルフォレンジック(法的証拠を見つけるための 鑑識調査や情報解析に伴う技術や手順)を使った約5カ月間の調査で、この問題のフィクサーとされる福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(故人)をめぐる、関電の原発事業の〃 闇〃やその〃利権構造〃をかなりの部分、解明したといえる。

 報告書は、森山氏が高浜町役場時代から、原発をめぐって、当時の関電トップに食い込み、退職後も30年以上にわたって自分が関連する企業を通して関電を食い物にしたことや、関電側も森山氏の無理矢理に金品を渡し、幹部らを共犯者に仕立て上げるという「暴力性」を認識しながら、逆にこの関係を利用、双方が持ちつ持たれつの関係にあったことをあぶり出している。  

未解明部分は検察の捜査にゆだねるべき

  報告書は、これまで不透明だった〃原子力ムラの闇〃をそれなりに明るみに出したもので、任意調査であるがゆえの不十分な部分はあるものの、読み応えのある内容となっている。結論から言えば、未解明部分や役員の刑事責任追及 は検察の捜査にゆだねるべきである。この報告書全文を読み込み、評価してみ た。(4月3日公表の第三者委員会報告書格付け委員会の「個別評価」を手直 しした。詳しくは、格付け委員会のホームページに記載されている。アドレスは、http://www.rating-tpcr.net/

強い独立性、中立性を持った第三者委員会の役割を証明

  報告書は全文200ページ、これに関電役員らの金品受領の表などが付いた別紙38ページという第三者委の報告書としてもかなりのボリュームがある。報告書の構成は大きく分けて①事実認定②原因分析③再発防止策ーの三つ。「再発防止策」の後に但木敬一委員長(元検事総長)の「結語に代えて」 という第三者委報告書としては異例の文章がある。この中で但木氏は「今回、 金沢国税局が調査に入った後においても、本件は取締役会でも論議されず、監査役会も取締役会に報告せず、世に公表する道も取らなかった。そのつけも決 して軽くはなかったことを肝に銘じるべきである」と経営陣を糾弾している。

 第三者委委員長は但木氏。委員に元第一東京弁護士会会長、元東京地裁所長 に加えて、特別顧問として元日弁連会長。いずれも関電とは利害関係はない。 「独立性・中立性・専門性」のあるメンバーである。ただし、法律家ばかりなので、委員に原発やエネルギー問題に詳しい専門家、ジャーナリストが加わった方がよかったと思う。また、「特別顧問」の役割がよく分からない。説明が必要だろう。大手法律事務所の23人の弁護士が委員補佐として参加。デジタルフォレンジックの専門会社でメール、PC、スマートフォンからデジタルデータ約40万件を絞り込むなど調査体制は手厚い。これらのメンバーが 2019年10月9日から20年3月13日まで、約5カ月間、調査に当たった。  

 今回の報告書は、元大阪地検検事正を委員長とする3人の社外弁護士が入った関電の社内調査委員会の「コンプライアンス上は不適切だが、違法性はな い」との1年半前の報告書(2018年9月)の結論を全面的に否定した。その上で、関電幹部の金品の受領は、1987年5月に森山氏が、高浜町の助役を退任した直後から始まり、2018年2月の金沢国税局の税務調査で問題が発覚するまで30年以上も続いた。この間、森山氏から金品を受け取った関電役員らは75人と社内調査よりも52人も増えた。その総額も3億2千万円から3億6千万円(ただし、社会的儀礼の範囲内のものは含まれておらず、発覚後にかなりの部分がまとめて返却された。同額の品で返したり、長い間、会社などに保管されたり、使われたものもある)に膨らんだ。その上で、関電の原発工事などの代金が森山氏を通じて、原子力事業本部を中心に、〃原発マネー 〃として関電役員らにも還流していたからくりも明らかにした。

 これらの調査結果は、法律の専門家が委員にいても、あくまでも身内の社内調査がどれだけ不十分となるか、を示している。一方で、強い独立性や中立性 をもった第三者委員会の役割は大きく、やり方次第では威力を発揮することを証明したといえるのではないか。 森友学園の問題で文書改ざんを強いられて自殺した財務省近畿財務局の赤木俊夫さんの奥さんが第三者委員会による再調査を求めている。私は3月25日の 「『森友学園問題』遺族感情逆なでする首相答弁」でも指摘したが、財務省の調査は、関電のケースでいうと、あくまでも身内による「社内調査」にすぎない。国会の主導で政権から独立した〃忖度〃のない今回のような第三者委員会による調査が行われれば、かなりの部分が解明できる可能性があると思う。

報道がなければ、闇から闇の可能性も

 さらに、報告書は、18年9月に社内報告書が作成されたあと、「コンプライアンス上、不適切な点はあるが、違法性はない」「外部に漏れる」などの理由で、当時の八木誠会長、岩根茂樹社長、森詳介相談役の関電トップ3人が報告書の非公表を決めたことを暴露した。同年10月に監査役に報告されるが、 取締役会には伝えられず、19年6月の株主総会でも明らかにされなかった。 これにより1年間も社内報告書が組織的に隠蔽されていたことが判明した。こ の問題は、翌19年9月の共同通信のスクープで初めて明るみに出た。このスクープがなければ、この問題は闇から闇に葬られていた可能性もあった。

 これに重ねて、このような「組織的隠蔽」だけでなく、問題発覚後に問題 の中心となった幹部たちに、〃焼け太り〃ともいえる高額な報酬を支給したり、 あるいは、昇進させていたことも調査は、明るみに出ししている。  

 19年6月の関電株主総会で、森山氏から1億円以上の金品を受けとるなど した豊松秀巳副社長は退任したが、エグゼクティブフェローとして残った。豊松氏は今回の問題の中心となった福井県にある原子力事業本部の元本部長だ。 3月14日の記者会見で但木委員長は、金品受領者の6割を占める同本部を 「関電の病根」「独立王国」と呼び、「豊松氏と森山氏とは、他の人と関係が違う」(但木委員長の会見での言葉)と指摘している。

 このような関電幹部に、今回の金品受領問題で国税に払った修正申告分など を含めて月額490万円という高額報酬を支払うことが決められた。さらに、 原子力事業本部で森山氏との深い関係にあった人物3人をすべて昇進させる人事を行っていることも事実認定で明らかにされている。

報告書が指摘しなかった問題点  

 非常に丁寧で詳細な事実認定をしているが、報告書が指摘しなかった不十分な部分もある。

 報告書は、〃原発利権の闇〃ともいわれる国会議員や、県議、市議らの政治家の関与など政界や官界への工作には、触れていない。但木委員長は記者会見で「残念ながら、そこまではいけませんでした」と答えている。どこまで踏み込んで調査したのかについても不明である。また、報告書には、一般論として、日本の原発事業の概要や関電の原発事業という項目はあるものの、関電と原発の監督官庁である「経済産業省」や〃原発銀座〃を誘致した福井県や高浜町との関わりについてもほとんど具体的な言及はない。しかし、金品受領問題が起きる以前、「関電中興の祖」といわれ、関電を支配したいわゆる「芦原 (義重元会長)ー内藤(千百里副社長)体制」(いずれも故人)と呼ばれた時代にまで、その調査スコープを広げている。  

 では「原因分析」はどうか。これらの事実認定に基づく不正の原因分析で報告書は、「コンプライアンスよりも事業活動が優先されてしまう、また、ユー ザーや社会一般の視点が欠落してしまうという〃内向きの企業体質〃が数々の 原因に通底する根本問題であった」と結論づけている。「内向きの企業体質」 と言えば、その通りなのだが、抽象的でやや分かりにくいのではないか。事実認定の切れ味に比べて、原因分析については、過去に事故隠しが指摘されたこ ともあるのだから、関電の構造的なトップを中心とした「隠蔽体質」への突っ 込みが物足りない、と感じた。  

 もう一つ。但木委員長は元検事総長だった。報告書では、19年6月まで関電の社外監査役だった検察の先輩の土肥孝治元検事総長(現弁護士)について も、ヒアリングに引き出して、「なぜ監査役が取締役会に報告しなかったのか」の経緯についてただしている。結論からいえば、土肥氏だけでなく、社内調査に関電のコンプライアンス委員会社外委員をつとめた元大阪地検検事正の 小林敬弁護士(検事正時代、大阪地検特捜部のフロッピーディスク改ざん事件が起き、責任をとって辞任)が加わるなど〃関西検察〃との関係が深い(土肥氏のあとに、元大阪高検検事長が就任)とされる関電と検察との関わりについても、過去に身内だったからこそ、説明がほしかった。しかし、但木氏を中心に委員が4時間以上にわたり会見に応じ、一つ一つの記者の質問に丁寧に答えている。このような委員長以下の委員会の真摯で積極的な姿勢は評価してお きたい。

 私も委員として参加する「第三者委員会報告書格付け委員会」(久保利英明 委員長)は、昨年11月に「徹底調査が委員会の権限や能力等に余るようであれば、検察による捜査に切り替えることも、委員会として検討し、その結果を報告書に記載されたい」との申し入れをしている。それにもかかわらず、残念ながら、報告書はそのことに、直接、言及していない。記者会見で但木氏は、 記者の「刑事告発をしないのか」との質問に対して、元助役が昨年死去し、時効や法律解釈のなどの問題もあって(幹部らを刑事告発することは)「ずいぶ ん考えたが、正直言って難しい」と答えている。  

 今回の問題の本質は、日本を代表する電力会社幹部と地元のフィクサーをめ ぐる単なる不正な金品の受領や取引にとどまらない。問題を矮小化してはなら ない。

 2011年3月の福島第1原発事故以来、原発の「安全神話」は崩れ、 電力業界には逆風が吹いている。関電問題は、単なる一企業のコンプライアンスの問題にとどまらず、日本の原発事業の在り方や国の原発政策、「再稼働」 を含めた日本のエネルギー政策の根本に突きつけられた問題とみるべきであ る。  

 もとをたどれば、関電幹部が森山氏から受け取っていた金品は電力料金である。ましてや関電は、福島第1原発事故の後、電力料金の値上げで利用者に負担をかけている。消費者やステークホルダーの怒りは、関電側が関与した役員 らの刑事責任を含めてかなりの踏み込んだ対応をしなければ、とても納得できないのではないか。デジタルフォレンジックであぶり出された森山氏に絡む関電社内の電子メールなどの生々しいやりとりや報告書の別紙にある会長、社長以下最高幹部20人の「金品受領者一覧」や09年度から17年度までの計421回、総額9千万円に及ぶ「森山氏との会食一覧」などをみて、関電幹部の そのコンプライアンス意識のなさに改めてあ然とせざるを得ない。やはり「関電問題」というよりは「関電事件」といえるのではないか。

〃モンスター〃を作ったのは関電  

 報告書を読んで感じることは、関電は決して「被害者」ではあり得ない、ということである。関電は、元助役の「共犯者」にとどまらず、むしろ、森山氏という〃モンスター〃(報告書の表現)を作った首謀者ではないのかとさえ感 じる。  

 このような事実が明らかになると、森山氏のような電力会社と地域をつなげる利権がらみの〃原発フィクサー〃は、原発を抱える地域には、どこにでもいる存在であり、関電の姿は〃原子力ムラ〃の構造そのものなのだと思う。

 関電幹部の刑事責任について、昨年12月、市民団体が特別背任などで大阪地検に告発している。地検が告発を受理したかは明らかではないが、水面下で捜査が始まっていると考えられる。検察が不起訴にしても検察審査会に審査が申し立てられ、2回の議決を経て強制起訴される可能性もある。

 また、報告書の再発防止策は「外部から会長」が中核だ。関電は3月30日、東レ出身の前経団連会長榊原定征氏を非常勤の会長職にあてる人事を発表した。さらに、再発防止に向けた業務改善計画で、社外取締役の権限を強める 「指名委員会等設置会社」に移行、金品を受け取った役員に株主の一部が損害 賠償を求めている件で、外部弁護士でつくる「取締役責任調査委員会」を設置 した。これまで原発推進の財界でのリーダーだった榊原氏の経営手腕は別にし て、会長を外部人材に求めさえすれば、今後はこのようなことは起きないのか。それも、「非常勤」である。  

 社外のチェック体制を増強することはもちろん一定の前進だ。だが、以前から関電には、4人の社外取締役がいたが、報道で問題が発覚するまで、このよ うな会社の存在そのものを脅かしかねない重要事項を知らされていなかった。 当たり前のことだが、知らなければ、誰でも動くことはできない。