「緊急事態宣言を考える」このような時だからこそデュープロセスが大切だ 「伝家の竹みつ」と呼ばれるが

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  4月8日午前零時、「緊急事態宣言」が発効した。緊急事態宣言は2011年3月の東電福島第1原発事故で出た(現在も継続中)ことがあるが、新型コロナウイルス特措法では初めてである。外出自粛要請や施設の使用停止という私権を制限する措置が可能となることなどから、〝劇薬〟と言われてきた。しかし、時間がたつにつれ、感染者拡大が止まらず、「要請」や「指示」にとどまるなど特措法には、罰則がなく、「強制力」に限界があること。それに加え、小池百合子東京都知事が3月下旬に繰り返し「ロックダウン(都市封鎖)」との強いことばを使ったことが世間の不安をあおって、メディアなどでは特措法について、「伝家の宝刀」ならぬ「伝家の竹みつ」とのことばも飛び交い始めている。

政令改正すれば感染症法でロックダウン可能

 安倍首相は7日の記者会見で公共交通機関や道路の通行に影響はないとして「都市封鎖(ロックダウン)は全くない」と強く否定したが、その後、NHKの番組に出演し、宣言に関して「不十分となれば、新たな法制も視野に入れなければならない」と新たな法整備にも触れた。5月6日までに宣言による大きな成果がでなければ、政府には、さらに、強制力の強い対応が求められる。「ロックダウン」は現行の特措法ではできないため、感染症法の政令での改正を使った「ロックダウン」を先取りする動きも出ている。「緊急事態宣言」は強制力が強まれば、強まるほど「人権侵害」などその副作用は大きい。NHKをはじめメディアへの規制も考えられる。だから、現行の特措法は、あまり強制力がないというできるだけ私権制限を抑えた内容はなっているのだ。このような時だからこそ、政府には、デュープロセス(適正手続き)を大切にした丁寧な国民への説明が求められている。

  ビデオジャーナリストの神保哲夫氏の「政府がひそかに手に入れていたロックダウン権限を検証する」(VIDEO NEWS、3月31日)と ブログのMASAの感染症法政治経済ニュース雑記帳(20年3月30日)が、強制力が弱い新型インフルエンザ特措法以外に感染症法の政令による改正により、政府はロックダウンできる法律を手に入れていたことを明らかにした。

 この問題では、後藤祐一衆院議員(国民民主党)が3月11日の衆院内閣委員会で「イタリアのロンバルディア州のような交通制限は、特措法上、緊急事態宣言をした後でもできないということでよいか」との質問をしたところ、西村康稔新型コロナ担当相は「政令改正して(感染症法33条を新型コロナウイルス感染症の適用対象として)入れれば可能となります」と答弁。さらに、後藤議員の「やるつもりはあるんですか」との質問に、西村氏は「現時点では考えておりませんが、専門家の意見を聞いて適切に判断していきたいと考えております」と答えている。後藤議員によると、西村氏は感染症法33条のことを特定して質問してないのにわざわざ33条を持ち出して答弁したという。

第1類感染症で72時間の都市封鎖へ

   新型コロナウイルスに感染症法33条を適用可能とする政令の改正が3月26日に閣議決定され、翌27日には施行された。神保氏などによると、新型コロナは1月28日に結核や重症急性呼吸器症候群(SARS)などの「第2類感染症」に政令により指定することが閣議決定されていた。今回は感染症法33条が適用できるように、エボラ出血熱やペストなど極めて毒性の強い「第1類感染症」に組み入れた。

   感染症法第三十三条 都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため緊急の必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、政令で定める基準に従い、七十二時間以内の期間を定めて、当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し、又は遮断することができる。

   条文をみると分かるが、「第1類感染症」を対象に、消毒ができないようなときに、72時間(3日間)を限度に、都道府県知事に感染症患者のいる場所や汚染地域や汚染の疑いのある地域の交通を制限、遮断できるという内容で、「消毒」と地域が限定的と読めることを除いて、都市封鎖に近いことができる規定になっている。感染法の違反者には50万円以下の罰金が定められている。確かに罰則付きでその範囲は別として都市封鎖ができる可能性を秘めている。

首相の役割は国民の安全と命と生活を守ること

 元検察官の山尾志桜里衆院議員(無所属)は神保氏の動画インタビューで「厚労大臣がこうした政令改正を行う場合は、感染症法で厚生科学審議会の意見聴取が義務付けられている。にもかかわらず、審議会は開かれていない。持ち回りの協議で決めたとのことだが、どのような議論があったのか明らかにされていない。このような強権の発動を可能にする政令の変更を議論を抑圧したまま行えば、国民の不信感を買うのは当然のことだ」と政府のずさんな対応を批判している。これでは、政府がひそかにロックダウンの権限を手に入れていた、と言われても仕方がない。

  直近のJNN世論調査で、「緊急事態宣言を出すべき」は8割に達している。また、毎日新聞の調査では、宣言を「評価する」が72%だった。毎日調査では「遅すぎる」という人も7割もいた。ほとんどの人が新型コロナウイルス撲滅のためには、緊急事態宣言を出したことに賛成していることになる。しかし、「国難」を口実に、首相が一部の官邸官僚との独断で法的根拠もなく全国で小中高を一斉休校したり、1世帯にマスク2枚を配ったり、いずれもデュープロセスを無視したやり方である。何か首相自身が危機に際して前のめりになり、高揚しているようにすら感じる。

 首相は宣言を出す前の7日の衆院議員運営委員会で、「緊急時に安全を守るため、国家や国民がどのような役割を果たし、国難を乗り越えていくべきかを憲法にどう位置づけるかは極めて重く大切な課題だ」と憲法を改正して「緊急事態条項」を創設する構想に前向きな姿勢を示した(産経新聞4月8日付朝刊)。憲法遵守義務のある内閣総理大臣が止まらないコロナ感染者拡大という最高度の危機の中で、このような立憲主義を無視した発言をしたこと自体、歴史にとどめておくべきだろう。いまの首相の役割は、国民の安全と命と生活をどうしたら守れるかーに尽きるのではないのか。