<政界クロノロジー>どうなる「小泉コメ劇場」 元農相ら反撥

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江藤前農相「コメ買ったことない」

<5月18日>

・江藤拓農相が佐賀市で開かれた自民党県連の政治資金パーティー「政経セミナー」で「コメ買ったことない」と発言。

〔江藤農相の発言〕(5/20熊日、5/21読売)

「玄米を渡されても精米できないという話があるが、街中に行けばコイン精米機がいっぱいある」

「コメは買ったことありません。支援者の方々がたくさんコメを下さるので、まさに売るほどあります。私の家の食品庫には」

「大変なんですよ。コメをもらうというのも。わざとではないでしょうけれども、いろんなものが混じっています。黒いやつ、石とか入っているので、いつも家庭内精米をしたうえで、コイン精米機に持って行く。」

「精米できなければ、玄米で売ることも今回は可能になりますので、効果が期待できるのではないかと思います」

▽趣旨と失言 

 江藤農相は「玄米」を買ってもらえれば、放出した備蓄米が消費者に早く届き、価格も下がる「効果が期待できる」と言いたかったのだが、その「玄米」に言及したところで、自分が支持者からもらう「玄米」の話を持ち出したのだが、一般国民がコメ価格の高騰でコメを買いたくても買えない状況のなかでの「買ったことない」「売るほどある」は国民感情を逆なでする結果になった。

<5月19日>

・朝:佐賀新聞が朝刊で報道。他社は報じなかった。佐賀新聞がホームページに上げたあたりからSNSで話題になる。

・午前:質問された林芳正官房長官に〝1分20秒の沈黙〟<25日付夕刊フジ>

・午後:江藤農相が農水省で記者団に囲まれて釈明。「私自身は週に2回はスーパー回りして、定期的にコメを買っている。妻からも電話があって怒られた。玄米で買ってほしいということを強調したくて、実態と違うことを言った」

「『売るほどある』と言ったのは言い過ぎだった。講演会場が盛り上がっていて、受けを狙って強めに言ってしまった。撤回というより修正だ」

・午後:野党が一斉に批判。

▽立憲民主党・小川淳也幹事長「進退が問われかねない深刻な事態だ」。農相不信任決議案提出について「可能性を否定しない」

▽日本維新の会・前原誠司共同代表「不適切にもほどがある」

▽国民民主党・玉木雄一郎代表「配慮に欠けた発言だが、(江藤農相が)辞めるような話ではない」

▽共産党・小池晃書記局長「一発退場。辞職するべきだ」

・夜:石破茂首相、林官房長官らが鳩首協議。厳重注意で乗り切る方針を決める。自民党の森山裕幹事長も続投を容認。

▽判断ミス

 野党は江藤農相のクビまでとことん追求してくることはあるまいと判断した。そのきっかけは「辞めるような話ではない」との玉木発言にある。

農相更迭

<5月20日>

・午前:江藤農相の閣議後記者会見:「国民がいかに憤慨されているかを朝まで(スマホで)見ていた」

・午後:石破首相が続投への理解を求める(衆院本会議で)

・午後:江藤農相「宮崎ではたくさんいただくと『売るほどある』とよく言う。宮崎弁的な言い方でもあった」と釈明(参院農水委員会で) ⇒ これがさらに反発を招く結果となる。

・午後:前日まで批判のトーンが弱かった国民民主党の榛葉賀津也幹事長「ふざけるなという話。国民の感覚がわからない農相は即刻辞めるべきだ」(参院外交防衛委員会で)と一転して強硬に批判。

・夕:野党5党国対委員長会談。江藤農相の更迭を求めることで一致。

・夕:立憲民主党の笠浩史国対委員長が自民党の坂本哲志国対委員長に対し農相不信任決議案提出の方針を伝える。

 国民民主党が方針転換したことと異例の野党5党が一致して「更迭」を求めたことが石破政権を追い詰めた。

<5月21日>

・午前6時54分:江藤農相が首相官邸に呼び出される。江藤農相は辞表提出、受理され、更迭される。

▽更迭と罷免

 「更迭」は新聞用語 辞書を引くと「ある地位・役目にある人を他の人と代えること」(大辞泉)であり、交代させる以上の意味はないが、新聞上は。病気辞任などのそれなりに理由のつく辞任でなく、大臣に落ち度や責任があるが、罷免されるには至らなかったとき使われる。法的には「罷免」と「辞任」しかない。戦後、罷免されたのは1947年の平野力三農相(片山内閣)、1953年の廣川広禅農相(吉田内閣)、1986年の藤尾正行文相(中曽根内閣)の3例しかない。罷免するのは首相に人の見る目がなかったことや内閣に傷がつくとして回避するためだが、今回のように大臣の〝有責性〟を際立たせるために「更迭」が使われるが、「引責辞任」でもよさそうだ。

江藤農相以前のコメ政策

<2024年・坂本哲志農相>

・9月17日:「新米が供給され、円滑な流通が進めば一定の価格水準に落ち着く」 ⇒ 新米が出始めても、さらに相当量が出回ってもコメ価格下がらず。

・10月1日:(任期中、備蓄米を放出しなかったことについて)「決断に誤りはなく適切だった」 ⇒ 政策の失敗に反省なし。

<2025年・江藤拓農相>

・2月:備蓄米放出へ政策転換。「国の姿勢を示せば流通に乗せようという方々も出てくるのではないか。その結果、価格も安定していくのではないか」 ⇒ 全くそうはならず、コメ価格は上昇し続ける。

・3月:備蓄米がやっと店頭に並び始める。「(流通の)目詰まりが解消されて価格が落ち着くことを期待している」 ⇒ これまた期待外れ。

・4月:「(備蓄米が)店頭に並び始めるのは4月10日くらい」 ⇒ 一部店頭に出たが、価格の大勢に関係なし。

・5月:「(備蓄米の)流通ができていないことは改善すべき余地が多分にある」 ⇒ 問題点が分かっているなら、なぜ手を打たない。

▽流通の目詰まり

3月に備蓄米21万トンが落札されたが、4月27日までに消費者に届いたのは10%に過ぎなかった。精米能力の不足、運版業界の運転手不足、卸問屋の値上がりを見込んでの売り惜しみなど複合要因が考えられる。

小泉進次郎氏の農相起用

・5月21日:石破茂首相は後藤農相の後任に小泉進次郎氏を起用。小泉氏は記者団に「日本の農政は、ややもすると組織・団体に気を使い過ぎ、消費者の目線での改革が遅れている。コメはまさにその象徴だ」「コメの高騰に対してスピード感をもって対応できるよう全力を尽くす。コメ担当相との思いで集中して取り組む」「需要があれば無制限に出す」、備蓄米の4回目の競争入札を中止し、「随意契約」を検討するよう指示した。

・5月21日:党首討論で石破首相「コメは(5キロ当たり)3000円台でなければならない」 ⇒ 玉木国民民主党代表「実現しないときは責任を取るのか」 ⇒ 石破首相「責任を取っていかなければならない」(後に責任を取るのは首相を辞める意味ではないと説明した)

・5月23日:小泉農相が5キロ当たり「2000円」で小売店頭に並ぶよう売り渡すと思い切りよく断言した。

・5月27日:備蓄米の残り60万トンのうち半分に当たる30万トンを随意契約で売り渡す方針に対し、33社15万7073トンの申し込みがあったと農水省が発表。(22年産米20万トンはほぼ完売、21年産米10万トンは売れ残り状態)申し込み殺到のため、受付の一時中止もあった。

▽誰が「随意契約」を発案したのか

テレビのニュースバラエティー番組に出ていた元官僚は、競争入札か随意契約かは官僚的な仕組みに通じていなければ、すぐに出る案ではないと指摘していた。反農水省的な大物官僚OBもおり、石破首相自身の指示の可能性もある。いずれにせよ、現場記者にはもう少し追及してほしいテーマだ。

小泉農相を野党党首が追及

(5月28日、衆院農林水産委員会)

・立憲民主党・野田佳彦代表:「バナナのたたき売りではないはずだ。5キロ2000円は、生産者にとって適正価格なのか」 ⇒ 小泉農相:「古い備蓄米を卸す価格としては適正だ。生産者には、消費者のコメ離れを防ぐということで理解願いたい」

・日本維新の会・前原誠司共同代表:「維新は昨年8月の段階で備蓄米放出を主張していたのに、実際に放出されたのは半年後だった」「卸売業者にコメが滞留している。長期的な流通の見直しも必要だ」 ⇒ 小泉農相「流通の透明化、適正化は検討材料の一つだ」

・国民民主党・玉木雄一郎代表:「コメは年間40万トン不足している。増産というメッセージを出すことが価格高騰の解決策になる」 ⇒ 小泉農相「今より増やしたい方向性だ」

コメ価格

<競争入札価格>

・2023年産米の買い入れ価格:60キロ約1万3000円(5キロ換算1083円)

・2025年競争入札での2023年産米の価格:60キロ2万2477円(5キロ換算1873円)

<小売価格>

・2024年5月の小売価格:5キロ2108円

・2025年2月の小売価格:5キロ3829円

・2025年4月の小売価格:5キロ4217円

・2025年5月の小売価格:5キロ4268円

・5月28日発表の小売価格:5キロ4285円(2週連続で過去最高を更新)=調査対象5/12~18

・6月 2日発表の小売価格:5キロ4260円(25円安、3週ぶりで下落)=調査対象5/19~25

・6月 9日発表の小売価格:5キロ4223円(37円安、2週連続で下落)=調査対象5/26~6/1

その他の米価

・6月11日:コメ業者間取引のスポット価格が60キロ3万8000円(5キロ換算約3170円)=1万円近く(5キロ換算830円)下落。

・新米概算金が高騰:例えばJA全農あきたの「あきたこまち」60キロ2万4000円(5キロ換算2000円)=7200円(5キロ換算600円)上昇。<6/8朝日>

テキスト ボックス: 生産者 ⇒集荷業者 ⇒JA全農 ⇒卸売業者 ⇒小売・ ⇒消費者
(農家)(JA農協)      (1~5次) 外食業者

流通過程の問題

「複雑な流通」(西川邦夫茨城大学教授):3つのルートがある

 ・① JAを通すルート(全体の40%)

 ・② 農家から卸・小売に直接売る「農家直販」

 ・③ 自家消費や親せき、友人に配る「農家消費」

・6月6日:小泉農相が「集荷業者、卸、小売りそれぞれの役割や現状をつぶさに説明していく」「ある卸は利益が500%。どういうことなんだろう」⇒ 木徳神糧が利益率が2024年1.4%から25年5.0%(利益額19億2400万円)に伸びた。(前年同期比487.4%増)もともと薄利だったのが、通常の企業利益の水準になっただけとの見方もある<6/7産経>

需給ギャップ

<西川邦夫・茨城大学教授>(5/14読売)

・農林水産省の需給予測:2023年産米の需要予測=680万トン ⇒ 実際は705万トン

 (要因:パンなどと比べての割安感、インバウンド急増による外食増)

・2023年産米の供給予測=669万トン ⇒ 実際は661万トン

 (中長期的に年間10万トンずつ減る単純計算)

(既に予測段階で需要超過。でも手を打たず、ノホホンとしていた?)

 野村元農相〝チクリ〟発言

・野村哲郎元農相が5月31日、鹿児島県鹿屋市で開かれた自民党の森山裕幹事長の国政報告会で「ルールを覚えていただかなきゃいかん」と苦言。

〔野村元農相の発言〕(6/1各紙)

「森山先生は部会長もされたし、農政の自民党の政策決定のトップですが、相談に来ていないと思います。農林部会にかけて、古米なり、古古米の販売を随契でやるとか、もうほとんど自分で決めて自分で発表してしまう。(重要政策は自民党の部会に諮るという)ルールというのを覚えていだかなきゃいかん」

「小泉農相はお父さんに似ていて、あまり相談することなく、自分で判断したものをどんどんマスコミに発表している。森山先生からチクリとやっていただけないと今後が心配だ。われわれが言ったって言うことは聞きませんから」

・6月1日:「ルールは存じ上げているつもりだ」「随意契約に切り替えることも党に諮らなければいけないとしたら、5月31日に備蓄米が店頭に並ぶことはなかった」「緊急事態だ。じっくり議論をしたうえでないと動けないと言われたら、この結果は出せない」(都内の小売店視察後の取材に答えて)

・6月1日:斎藤健元農相「いま、この瞬間は緊急事態だ。早くマーケットを冷やすために、党の話を聞かないで進めるのも、私はやむを得ないと思う」(フジテレビ系「日曜報道THE PRIME」で)

・6月1日:小沢一郎氏「これも自民党のシナリオ通りの茶番劇。敵・悪役を作り、小泉氏の人気を上げ、彼を看板にして選挙は楽勝という魂胆。劇場型政治ほど危険なものはない」<自身のX=中日新聞>

・6月2日:森山幹事長「大臣は当然のことをした」「時間との戦いだったので仕方なかったのだろう」「本人(小泉氏)が農水部会長をしていたので心配していない」(農水省で)

・6月2日:玉川徹氏「ルールを覚えないといけませんよ、みたいな苦言をなぜ呈するのか。あんなこと言ったらますます悪役になっちゃうということがわからないんですかね」<テレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」>

・6月5日:後藤謙次氏「芝居でも悪役が出てくるのは観客が喜ぶわけです。ちょうど斬られ役が出てきちゃった」<フジテレビ情報番組「サン!シャイン」>

・6月4日:週刊文春電子版は、野村元農相がJA関連団体から7000万円の献金を受けていたと報じる。<キジも鳴かずば撃たれまいものを!=井芹>

備蓄米放出

・1月:放出しないとしていた備蓄米について方針転換。流通に支障がある場合には放出できるよう制度改正。(この時点での備蓄米は90万トン)

・3月:1回目と2回目の競争入札を実施。2024年産米と23年産米(古米)の計21万2000トンを放出。 ⇒ 4/27前に小売店に届いたのは1万5000トン(7%)

・4月:3回目の入札実施。23年産米(古米)10万トン放出。

・5月:4回目の競争入札を中止。随意契約で20万トンを放出。うち22年産米(古古米)10万トン、21年産米(古古古米)10万トン。

・6月 5日:政府の「米の安定供給等実現関係閣僚会議」が初会合。

・6月 6日:小泉農相が「(コメの)緊急輸入も含めてあらゆる選択肢を持って迎えたい」と表明。石破首相も「あらゆる手法というものは考えられなければならない」と同調。 ⇒ 自民党の森山裕幹事長が「主食のコメを輸入に頼ってはいけない」と牽制/立憲民主党の横沢高徳氏が「小泉氏がコメの輸入に舵を切ると発言した」と非難。 ⇒ 小泉農相は「舵は切っていない。卵が足りないときアルゼンチンから輸入した」などと反論。

・6月 7日:立憲民主党の原口一博氏「古古古古米(ここここまい)はニワトリさんが一番食べている。人間様は食べない。恐ろしいでしょ」(以前に国民民主党の玉木雄一郎代表は「1年経ったら動物の餌になる」と発言)

・6月10日:小泉農相が備蓄米20万トンを追加放出すると発表。内訳は2021年産米(古古古米)、20年産米(古古古古米)それぞれ10万トン。

※備蓄米の残量:10万トン。小泉農相は、東日本大震災で4万トン、熊本地震で90トンだったので、災害対策に「十分対応できる水準だ」と強調。

                                          (了)