静かに広がる「財務省解体デモ」の根底にあるもの 個人参加の「経済デモ」に生活不安の切実感 氷河期世代の参加者も 江戸時代の「五公五民」に近づく国民負担率 テロ続いた時代に似た空気

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 財務省前で減税や積極財政を求める「財務省解体デモ」が静かに広がっている。7月の参院選を前に驚異的な物価高が進み、政党レベルでは減税合戦の様相だ。デモの特徴は、政党や労働組合がかかわっていない。個人で参加する「経済デモ」であることだ。

千人超えるデモは一人参加の自営業者ら

 大きなのぼりなどはなく、自作のプラカードを持って参加している。「政治にも責任があるのではないか」と、マイクで穏やかに訴える。氷河期世代だという人もいる。就職難だった氷河期世代(1974~83年生まれ)は1700万人で、非正規社員が多い世代だ。6000万雇用労働者のうちの4割は非正規。社会の安定化のためにも減らす努力が望まれる。    

 「役人の天下り機関を減らせば、財政赤字は一気に減る」と、ボール紙にマジックで書いて訴える。「1000兆円も財政赤字はだれがつくったのか」「財務省の公文書改ざん問題は許せないぞ」というのもあった。参加者は自営業者や中小企業の従業員風の人が目立つ。多くの人は一人でここに来て苦衷を訴えているが、1000人を越える時もある。政治的な主張は目につかないが、日々の生活不安を訴えており、それだけに切実感が伝わってくる。

 SNSでは「日本はトランプ(米大統領)みたいな人が破壊して、スタートからやり直す社会をつくろう」というのまであった。

国の目安超えたエンゲル係数

 消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数が28・3%で、国の目安の23%を超えた。食費が家計を圧迫して消費を下げていることを示している。税と社会保障の国民負担率は、この20年で10ポイント増だ。政府の統計も示すように、物価高で実質賃金は減り続け、控除制度も減っている。今年の春闘での賃上げ率は平均5・46%とされるが、それでも物価高が賃上げの上をいく。賃上げ交渉のない人々は「一円でもお金は出したくない」だろう。

 都内の公園で行われている炊き出しをのぞいたら、子供の手を引いた母親もいる。れいわ新選組のSNSに「母子家庭では牛乳を薄めている」というのがあった。

 「財務省解体デモ」とは、いささか物騒だが、注目されるためのキャッチフレーズで、だれも財務省がなくなるとは思っていないだろう。財務省の不祥事についての指摘もあり、財務省がどう見られているか一端が知られる。消費税を導入した竹下登首相から「政治は経済そのものだ。自民党は社会党の要求を3年後には実現させるように努めた。それが長期政権のコツだった」と聞いたことがある。中曽根康弘首相は、選挙応援で地方に出かけると必ず、繁華街や野菜市場などをのぞいて地域の人の生活ぶりを観察した。政治にいま大事なことは、「財務省解体デモ」の根底にある国民生活の実態をしっかりすくい上げることではないか。

1930年代の教訓

 令和の時代になって、既に首相を狙ったテロが未遂も含めて2回起きている。政治家のテロが頻発した1930年代と比べてみると、政治、経済、生活環境などすべての面で異なっていると思われるが、ある経済学者は「いや似た空気、雰囲気に似たものを感じる」と言う。まず政治だが、当時は、立憲政友会と憲政会の二大政党政治だったが、軍部を引き込んで主導権争いを繰り返し、いつの間にか政治は軍部を抑えられなくなった。

 一方、経済は第一次世界大戦の特需で、日本の景気は一気に良くなり戦時成金が生まれた。ところがすぐ反動で景気が悪くなる。1929年、米国株が暴落したことをきっかけに、世界恐慌が始まる。不況の中で浜口雄幸内閣は金解禁を断行。1930(昭和5)年に浜口首相は東京駅で右翼青年のテロに倒れる。1932(昭和7)年2月には浜口内閣の井上準之助蔵相が、選挙の応援演説中に右翼団体の血盟団員に暗殺された。米英が不況で金本位制を停止したが、日本は停止せず不況をさらに悪化させたといわれる。

 1カ月後の3月には、経済界の実力者の三井合名理事長、団琢磨も血盟団員によるテロに襲われて死亡。さらに2カ月後の5月には海軍青年将校らによる5・15事件で犬養毅首相が首相官邸で暗殺された。国民生活の苦境が続くと、昔も今もテロが起こりやすくなるところがある。

納税者の権利や参加意識が根付く工夫を

 当時の新聞はテロを厳しく批判したが、市民はむしろ拍手喝采するようだったと言われる。それほど国民生活は厳しかったからだ。大商社や銀行が倒産。日本の農村の綿製品などの輸出先の中国も不況で輸入禁止にした。災難は重なるといわれるが、1933(昭和8)年に、三陸地方に大地震が襲い大津波で3000人以上が行方不明になった。岩手県の資料には、一年間に2000人の若い女性が生活苦から上野駅などで身売りされたとの記録がある。

 税と社会保険料の負担割合を示す「国民負担率」は、過去20年で10ポイントも増えた。江戸時代の年貢の割合を50%にした「五公五民」に近づいている。財政赤字を加えるともっと高くなる。

 ここ20年ほどの間に税金と社会保障の支出が増え、普通に生活している人も生活が苦しくなっている。どこにどう文句を言っていいか分からない。ただしここに来て物価高、裏金問題など税と財政だけでなく、格差社会、非正規社員、就職氷河期の人々への税の使い方について関心も高まっている。

 参院選に向けて各党は、減税論議を盛り上げそうだが、「税は民主主義の生みの親」といわれるように欧米の議会では早くから、国民つまり、納税者の代表である議員が、税の集め方から使い方までを決める権利を持つという原則を確立してきた。

 したがって7月の参院選に向けた議論では、減税の取り合いだけでなく、財政支出や負担をめぐる議論、財源論から、伏魔殿といわれてきた特別会計、税の無駄遣いなどにわたり納税者の権利とか参加の意識が根付き広がって行くような工夫をしてほしい 。