「首相長男の総務省幹部接待問題」本当に「別人格」で「プライバシーの問題」なのか 森友・加計問題同様、行政の私物化疑惑連想 「贈収賄罪に発展の可能性も」と検察OB指摘

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 同じ日の3日に明らかになった東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言のインパクトが強過ぎるのか、テレビの情報番組には、あまり頻繁に登場しないが、2月4日発売(オンラインは3日午後)の週刊文春が報じた菅義偉首相の長男正剛氏が関係する総務省幹部接待問題は重大だ。安倍晋三前首相の「森友学園」「加計学園」など一連の「行政の私物化疑惑」を連想させるからだ。

総務省ナンバー2ら接待

 首相は衆院の予算委員会で野党の追及に「長男は別人格」「プライバシーの問題」などと、色をなして反論した。これはどうなのか。確かに、俳優やテレビタレントなどの子どもなどの不祥事に関して、親である俳優本人を批判することは「親と子は別人格なのに」と主張されることがあり、この「別人格」の考え方については、私はまっとうな議論だと考える。

 ただ、今回の場合は、そのケースと事情がかなり異なる。首相の長男がかつて、首相が総務大臣時代に大臣秘書官に抜擢され、約9カ月間務めた。その後、長男は総務省が許認可にかかわる放送事業会社「東北新社」につとめている。その会社の総括部長となっていた長男が会社幹部と共に、総務省ナンバー2の総務審議官ら幹部4人を接待し、お土産やタクシーチケットを渡していたというのだから、これは国家公務員倫理法に触れる大問題だろう。国家公務員倫理法に基づく国家公務員倫理規程は、公務員が「利害関係者」から供応接待を受けることや、金銭や物品の贈与を受けることを禁じている。「東北新社」は明らかに「利害関係者」の可能性が高い。また、たとえ飲食が割り勘だとしても、〈自己の飲食に要する費用が1万円を超えるときは【中略】倫理監督官に届け出なければならない〉と規定している。

世論調査で「納得できない」が62%

 首相にとって、自分がかかわっていないからといって、決して「人ごと」で済む問題ではない。首相が国会で長男を「別人格」とし「プライバシーの問題だ」と強調したことは、森友学園問題で安倍首相が「私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめる」との発言を思い出してしまう。

 「『別人格』というが、役人人事を一手に握る父親が大臣時代、秘書官に就けた長男との一献。断れる役人がいますか(5日付朝日新聞夕刊、素粒子)」という側面があることも事実だ。

 森友問題では、改ざんにかかわった財務省職員が自死するという悲劇を生んだ。総務省は調査を始めたそうだが、文書の改ざんなどはないと信じたい。6、7日共同通信が実施した世論調査では、この首相の説明に「納得できない」が62%で、「納得できる」が30・8%を大きく上回った。当然の結果であり、私は首相のこの問題に対する認識は甘すぎると考える。

 5日のフジテレビの情報番組にリモート出演した元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は「結論から申し上げますが、金額と接待の回数によっては、贈収賄罪という刑法の犯罪に発展する可能性がけっこうある事案だと思います」と指摘している。さらに、「放送事業の会社の人が接待をし、接待を受けた方が許認可を握っていると言うことなので職務権限という、贈収賄罪のポイントになる点も適用される可能性もあります。週刊文春が何度もいわば様子をうかがってもっと(接待の)回数が増えてきて、そこで発覚すると、贈収賄罪になってもおかしくない案件だと思います」(2月5日付スポーツ報知)としている。「桜を見る会」問題でやっと幕引きを図ったと思い込んでいたであろう菅政権。ところが、「菅さん、あなたもか」といわれても仕方のないような「危ない事案」が再び政権に降りかかってきたといえそうである。

谷脇審議官は携帯料金の旗振り役 

 コロナ対策への「後手後手批判」、緊急事態宣言下、自民、公明両党の幹部らが東京・銀座のクラブを訪れていた問題、そして、低下が止まらない内閣支持率。官房長官時代に記者に「権力は快感」と漏らしたこともあるという首相は、思ってもいなかった相次ぐ〃試練〃に、さぞや頭を抱えていることだろう。コロナ禍にあっては、安定した政権、国民からの信頼を得られる政権が国民にとって必須条件。残念ながら、焦れば焦るほど、なかなか思うようにはいかないのが現実だ。菅政権はまた新たな火だねを抱えた。 

  週刊文春2月11日号(4日発売)によると、接待を受けたのは、谷脇康彦総務審議官、吉田眞人総務審議官(国際担当)、衛星放送等の許認可にかかわる情報流通行政局の秋本芳徳局長、その部下で同局官房審議官の湯本博信氏の計4人。

 谷脇氏は菅首相肝いりの「携帯料金の4割減」の旗振り役で、今夏の総務事務次官就任が確実視されている、という。谷脇氏は昨年10月7日夜、東京の日本橋人形町の料亭で、東北新社の二宮清隆社長、子会社である株式会社ザ・シネマの三上義之社長ら4人と2時間40分にわたり会食していた。吉田氏は、首相が自著の「政治家の覚悟」(文春新書)で,NHK改革に絡み、当時の放送政策課長が後ろ向きの発言を新聞の論説委員との懇談の席でしたとして「許せないから更迭した」と自慢している課長の後任に抜擢された人物、省内では、一番下の課長から一番上の課長に昇格したと話題になった人物である。2人とも、首相のお気に入りの総務官僚ということらしい。

長男は総務省幹部の接待要員

 谷脇氏は当日の様子をブログに「夜、めったにいかない人形町にて知人と会食」と書いていた。週刊文春はさらに続ける。「だが、谷脇氏を接待したのは『知人』という軽い響きとは対極にある人物の子息。その3週間前に首相に就任したばかりの菅氏の長男で、現在、東北新社のメディア事業部趣味・エンタメコミュニティ総括部長の肩書をを持つ正剛氏だ」。正剛氏は表向きの肩書とは異なり、「実際は総務省幹部らの接待要員として重用されていた。東北新社の衛星放送チャンネルは、総務省から認定を受けた上で事業運営しているため、総務省との関係は最重要視されている」(東北新社関係者)。正剛氏は大学卒業後、ミュージシャンを目指し、バンドを組んでいたこともある。06年9月、25歳の時に、第1次安倍政権の総務大臣として初入閣した首相が政務担当の大臣秘書官に抜擢した。

 昨年の10月から12月にかけて4人はそれぞれが東北新社の呼びかけに応じ、都内の1人4万円を超す料亭や割烹、寿司屋で個別に接待を受けていた。また、手土産やタクシーチケットを受け取っていた。利害関係者との会食では、割り勘であっても1人当たりの金額が1万円を超える際に義務付けられている役所の倫理監督官への届出も出していなかった。長男は4回のすべての接待に同席していた。

 では、「反世襲政治」をモットーとするはずの首相が長男をなぜ秘書官にしていたのか-。週刊文春もこのことに触れているが、週刊プレーボーイ09年6月22日号にフリージャーナリスト畠山理仁氏が書いた「自民・菅議員が息子を総務大臣秘書官にしていた」によると、菅氏は当時、畠山氏のインタビューに応じ、抜擢の理由について「(長男は)バンドやっていたの。バンドの人が辞めて、またプラプラしていたからその間は・・・」と答えている。

 政治家の子息が秘書官に就くことは珍しくない。安倍氏も父晋太郎氏が外相時代に秘書官に就いている。ただ、大臣政策秘書官は公務員として税金が投入されるのだから、その理由を「プラプラしていたから」という言い方はおかしくないか。首相の総務大臣の期間は11カ月だが、長男はなぜか、9カ月間で秘書官を辞めている。08年に首相は長男を同じ秋田県出身の実業家で東北新社の創業者、植村伴次郎氏(故人)に預けた、という。植村氏は61年に、外国テレビ番組の日本語吹き替えで知られる東北新社(東北社)を創立。同社HPによると、現在では、映像に関するあらゆる事業を行っている「総合映像プロダクション」。CM制作、プロモーション制作、グラフィック・WEB制作、音響・字幕制作、番組・映画制作、ライセンス営業、BS・CS放送関連事業、ネット配信事業など、幅広い事業を展開している。従業員約1600人、ジャスダック上場の大企業である。長男は統括部長に昨年5月に就任している。

接待の問題点

 この接待の何が問題なのか。文春報道が指摘するように05年12月、首相が総務副大臣のときに、同社の映画専門の「スターチャンネル」が総務省からBSデジタル放送の委託業務の認可を受けていることや、17年には、4Kの実用放送に関して東北新社の子会社の「東北新社メディアサービス」が衛星基幹放送事業者に認定されるなど、東北新社が総務省の認可で発展してきた形跡があるからだ。接待が明らかになった昨年12月には、「スターチャンネル」の放送法で定められた5年に1度の更新の時期。今後も4K放送に関する認定の更新が随時控えている。このような時期に発覚した首相の長男も絡む総務省高級幹部への接待問題。それしか言いようがないのかもしれないが、首相は「別人格」などといっている場合ではないのではないか。

 文春オンラインが速報した3日夜、首相は記者団の取材に「私自身は全く承知していない。総務省で適切に対応すると思う」と述べ、自ら長男に事情を聴くかどうかについては「考えていません」と語った。

 この問題は、当然、国会の予算委員会でも早速取り上げられ、首相は立憲民主党など野党の追及を受けた。

 4日午後の衆院予算委。立憲民主党の黒岩宇洋議員が「週刊誌報道は事実か」と質問。首相は「総務省で事実関係を確認し、ルールにのっとって対応してほしい。私自身は全く承知していない」と答えた。その上で、長男と電話で話したことを明らかにし「(長男には)調査が入ったら、事実関係に対して、協力するようにということは申し上げた」と述べた。

 一方で「私の親族であるとは言え公的立場にはない一民間人に関するものだ。本人やその家族などの名誉やプライバシーにも関わることであり、本来、このような場で、お答えすべきことではない」と感情を露わにして答えた。

 また黒岩議員が、首相が総務相だったときに、長男を秘書官に任命したことについて「世襲よりはるかに甘いことをやっている」と追及したことに対し、首相が「息子は3人いるが、政治家には誰もしない」と色をなす場面もあった。さらに黒岩議員が「言っていることとやっていることが真逆。自分の親族や家族、そして一番近いと言われている総務省をかばっているとしか思えない」とただすと、「世襲制限はずっとやり遂げる。(長男は)もう40歳ぐらいで、ふだんほとんど会っていない。今の私の長男とも結びつけるっていうのは、それはいくらなんでもおかしいんじゃないでしょうか。完全に別人格ですからね。そこは、ぜひご理解をいただきたいと思う」と珍しく自分自身の言葉で言い切った。(いずれも朝日新聞デジタルなどから)

極めて思い入れ強く関係の深い官庁

 そもそも、総務省は、首相が副大臣や大臣を初めてつとめ、他の省庁に比べて極めて思い入れの強い官庁である。いまだに強い影響力を持つといわれる。だから、首相がことあるごとにその成果を繰り返す「成功体験の象徴」ともいえるふるさと納税の担当も総務省であるし、首相が目玉政策とする携帯電話の値下げなども担当している。首相となった今でも最も関係が深い官庁である。

 接待を受けた4人のうち、4日の予算委員会に出席したのは、秋本芳徳情報流通行政局長ただ1人。総務審議官2人について、自民党は「事務次官級」との理由で出席を拒んだ。秋本氏はこの日、東北新社側と会食したことを認め、費用は返金したと言うが、当時は「利害関係者が出席しているとは思わなかった」と述べている。秋本氏の証言は、とても信用できる内容ではない。他の3人は委員会に出てこなかった。

「年に1回程度、会食」と総務省の2幹部

 8日の衆院予算委員会には4人のうち、秋本局長と湯本博信・官房審議官が政府参考人として出席。立憲の山井和則氏が秋本氏と湯本氏に接待の回数を尋ねると、湯本氏は「菅氏(首相の長男)との間では記憶している限りで、だいたい、1年に1回程度はお会いして会食した記憶がある」と答弁した。秋本氏も同様に「1年に1回程度、会食の機会を持たせていただいていた」と答えた。

 山井氏は「やっぱり衛星放送会社に息子さんが就職されて、定期的に会食をされていた」と述べ、2氏にこれまで何回会食したかを質問。秋本氏は「いつごろから年に1回程度お会いする機会をいただいてきたかは私自身の記憶を確かめるとともに、先方に確認する事項でもある」と述べ、回答を避けた。湯本氏も「先方のある話なのでただいま調査を受けている身」などと述べて説明を拒んだ。

長男は「接待要員」

 谷脇総務審議官が自身のブログで「知人」と書いたのは、首相の長男のことなのだろう。文春報道では会食は4回だが、それ以前にも秋本、湯本両氏については、いつごろかにつては回答を避けたが、「1年に1回程度」は同じような接待があったことが8日の予算委で判明した。名前の挙がった4人以外の他の総務省幹部との接待はないのか。自然なのは、何よりも首相の息子だから、接待に応じたのではないか。気がかりなのは、東北新社が「接待要員」として長男を重用していたという文春報道の部分である。接待には、必ず見返りを求める目的がつきものだからである。疑問はつきない。

 (人事院の)国家公務員倫理審査会や総務省は調査を始めたとされているが、総務省は一番首相に忖度しそうな官庁である。本来は中立性の高いはずの人事院を含めて、残念ながら、自浄作用には、あまり期待できない。コロナ禍にあり、「野党はスキャンダル追及ばかり」との声もあるのは事実だが、政権の疑惑を放置したままでは、議会制民主主義の根幹である国会の「監視機能」は果たせない。国会で野党は「国政調査権」を駆使して、問題の背景を追及するのは当然である。

 ふだんは政権寄りといわれる産経新聞は、「社説」に当たる5日の「主張」で「長男の接待疑惑 首相自ら説明を尽くせ」で鋭い切り口で以下のように書いた。

 「長男は菅首相が総務相時代に政務秘書官を務めていた。同省幹部らとの面識は当時からあったとみられる。元総務相秘書官、首相の長男が威光を背景とする接待であると疑われて当然である。菅首相は衆院予算委で『長男とはほとんど会っていない。完全に別人格だから、そこはご理解いただきたい』と述べた。所管官庁の許認可事業に関わる接待疑惑である。肉親が関与していれば、首相の政治責任も問われるのは当然だろう」

 また政権を揺るがすスクープを放った「文春砲」。官僚の乗ったタクシーの料金まで調べる丁寧で見事な取材である。続報もあると思う。文春よりもはるかに記者の数の多い、官邸などに常駐記者を置く大手の記者クラブメディアはまた、文春にしてやられた。この悔しさをバネに、この問題の深層をえぐる取材や報道を期待する。